02
帰宅すると、タイミングがよく、夕食の時間になった。制服姿のまま夕食を食べると、圭介はさっさと自室へと戻った。
とりあえず宿題をしようとノートにペンを走らせていると、ふいにノックの音が聞こえた。
「なんだ、日奈子か」
誰かと思うと、扉の向こうにいたのは日奈子だった。
「お母さんが洗濯物があったら出しなさいって」
「今から洗濯するのかよ」
「分からないよ。日奈子はそう言われただけだし。早くしてよね」
そういえば、夕食の最中、明日の天気がどうだらこうたらで、洗濯物のことを言っていたような気がする。圭介はペンを置くと、制服を脱ぎ始めた。
「ん? どうした?」
上着を脱ぐと、日奈子がずっと立っているのが気になった。
「洗濯物、持って行くわよ」
「え? どうしてまた。言っておくけど、俺はお前に渡せるお小遣いなんてないぞ」
「もうー。違うよ。日奈子、これからお風呂に入るから、持って行かないと覗かれちゃうじゃん」
そういうことか。北野家では、脱衣所に洗濯機がある。謎が解けた圭介は、溜め息をついた。
「誰も覗かないって。誰がお前の裸なんて見たいんだ」
「裸だけじゃなくて、日奈子の下着でも見る気でしょ。そうはさせないんだから」
「被害妄想もほどほどにしておけよ」
「うるさーい。とにかく、早く着替えてよ。お風呂に入りたいんだから」
うるさいのはどちらだ。そう思った圭介だが、またそれを言えば喧嘩になるだろう。この女は無駄に気が強い。圭介は諦めて制服を脱いでいく。
「お前、そう言いながら俺のパンツを覗いているんだな」
トランクスと靴下だけの姿になった。
「うっさい。そんなおじさん臭いパンツを穿いてるなんてサイテー」
下着に最低も最高もあるのか。圭介が靴下を脱ぐと、日奈子は「あっ」と声を上げた。
「ポケットの中とか何も入っていないわよね」
「入ってない」
言いながらポケットを漁ると、先ほど部室で拾ったハンカチが出て来た。
「入ってるじゃん。あれ? そんなハンカチ持ってたっけ?」
「さっき部室で拾ったんだよ。たぶん忘れ物」
「置き引き?」
「ハンカチを置き引きしてどうするんだ。明日持って行って、本人に渡すよ」
ハンカチを持っていると、さっと布は手の中から消えた。
「渡す人、分かってるの?」
「たぶん」
確率的に二人に一人だ。どちらかに聞けば分かるだろう。
「じゃあ洗濯して持って行きなよ。ほら、においとか移っているかもしれないし。女の子でしょ、落とした子って? 臭いにおいが付いてたら可哀想だし」
「ポケットに入れていただけでそんなにおいが移るかよ。それに俺は臭くない」
日奈子からハンカチを奪い返そうとした圭介の手は空を切った。
「とにかく、洗濯する。明日の登校までには乾いていると思うから」