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「新聞部、ねぇ」
胡散臭い広告を見るような態度だった。
和也を新聞部に引っ張ろうと思いついた翌日、圭介はさっそく和也にアタックを仕掛けた。てっきり指でも鳴らして二つ返事で引き受けてくれるものだと思っていたが、和也の反応は芳しいものではなかった。
「いいアイディアじゃないか。部は潰れないし、和也にしてみれば好き勝手に動き回れるだろうし」
友人の予想外の反応に圭介は戸惑いを覚えつつも、何とか説得を試みる。
「うーん。まあ、そうなんだが……別に新聞部じゃなくても好き勝手やってたしなぁ。むしろ部の看板が重荷になることだって十分考えられる」
悪知恵がよく働くせいか、和也は慎重だった。腕を組んで思案する和也に、圭介は苦虫を噛み潰した顔になっていた。
「頼むよ。このままじゃ潰れる」
『お前そんな部に愛着なんてあったのか? それともまた西野嬢から頼み込まれたとか」
入部経緯を知っている和也はそう言って笑った。
「違うよ。今回は自分の意思だ。な、まだ時間はある。考え直してくれないか」
「うーむ。まあ、期待はしないでくれよ。あと、入らなかったとして、縁を切るなんて真似しないでくれよな」
「そこまではしないって」
まだまだ和也の力を借りる場面はこれから出てくるだろう。
肩が凝ったのか、和也が首を回すと、視界にある女生徒が入った。
「堀じゃん」
和也の声で圭介も見た。ちょうど堀未央奈は渡り廊下を歩いているところだった。
「堀とかどうだ」
その姿が見えなくなると、和也は思いついたかのように言った。
「無理だろ。陸上部だけで忙しいって」
「わかんないぜ。スカウトしてみるだけしてみればいいじゃないか。もしかしたら人間関係で悩んでいて、辞めたいって思っているかもしれない」
「そんな都合がいい展開になるとは思えないけど」
和也は静粛を促す裁判官のように拳を握った手で机を二度叩いた。
「聞いてみなければわからないことなんて世の中たくさんある。お前は勝負から逃げているんだ。最初から諦めている奴に願いが叶うわけがない」
熱のこもった口調に圭介は気圧された。
「お前の悪い癖だ。始まる前からすでに諦めている。勝負の前に試合が決まっていると思い込んでいる節が見受けられる」
二人の関係が同級生の立場から、迷える子羊を救う牧師と無明に陥った男という立場になっていた。
「そう簡単に諦めることならば、最初からその程度の悩みだったっていうことだ」
スッパリと切られたようだ。しかし不快感はない。むしろ曇っていた空が一気に晴れたような開放感があった。
「どうしてお前はそんな自信を持って人にアドバイスできるんだ」
圭介の和也を見る目が畏敬の目に変っていた。
和也はフッと笑った。
「所詮他人事だからさ」