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「ちょっとトイレに」と言って七瀬は席を立った。彼女の姿が完全に見えなくなると、太ももが撫でられた。隣を見ると、伊織と目が合った。彼女には珍しく、悪戯っ子のような目つきをしていた。
「二人っきりだね」
まるで恋人同士の会話のようだった。周囲には内緒で付き合っているような。
「すぐに部長は戻ってくるよ」
「でも珍しいよね。部長が私たちを食事に誘うなんて」
「そうだよね。そろそろ引退だからじゃない?」
どこかのテーブルからお好み焼きが焼ける音とにおいがした。
「引退か。そしたら私たち二人っきりの部活になっちゃうね」
そうだった。七瀬がいなくなれば、必然的に伊織と二人きりになってしまう。けれども、そうなると廃部の可能性があった。
「そうしたら毎日襲われちゃうのかな」
誰だということはわかっていたが、念のため圭介は質問をした。
「誰に?」
「もちろん……あなたに」
太ももを撫でていた手が股間に触れた。どうせ振り払っても無駄だろうし、七瀬が帰ってくれば止めるだろう。
「襲わないよ」
「嘘。“あのこと”を脅されて毎日脅されちゃうんだ。『今日はノーパンでバイブを差しながら授業を受けろ』とか、『裸で校舎を歩き回れ』とか、危ないことをさせようと思ってるんだ」
「俺はそんな真似をさせないし、変態じゃない」
さわさわと股間を撫でられていると、血液が集まり始めていた。
「ご主人様がこの場でフェラしろって言ったらしますよ」
耳元でふうっと息を吹きかけられると、産毛が逆立った。
「言わないよ、絶対」
「残念」
七瀬の姿が見えた。股間への刺激がなくなった。
「二人はトイレ行かなくて平気? 歯に鰹節が付いてるかも」
「あっ、私確認してきます」
いそいそと席を立つ伊織。圭介も立とうとすると、七瀬が手のひらを見せてストップをかけた。
「北野君は付いてへんで。たぶんやけど」
「たぶんって何ですか。確認してきますよ」
「ダメや。せめて伊織ちゃんが帰って来てからにして」
一人では寂しいということか。浮かしかけていた腰を下ろした。
「でも、そろそろ引退なんやね」
烏龍茶を飲みながら七瀬はしみじみと言った。
「寂しいんですか」
圭介の言葉にかぶりを振った。
「寂しいっていうか、心配なんよね。もしかしたら廃部になるかもしれへんし」
やっぱり。二人ではさすがにそうなってしまうか。
「二人じゃ厳しいですよね。いくら掛け持ちをしていないからって」
「せやね。あーあ。誰か掛け持ちしてくれへんかな。この時期じゃ難しいだろうけど」
絵梨花の顔とみなみの顔が思い浮かんだ。けれども、二人とも難しいような気がした。