第二十二章「都市伝説」
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「で、どういう悩み? 解決できるかどうかはわからへんけど、聞いてはあげる」

 聞いてあげるとは。自分から突っ込んできたくせにずいぶんと上から目線なものだ。

「彼女のことが好きすぎて辛いとか?」

 横から伊織が口を挟んできた。おおよそ人に興味のなさそうな二人だが、そこは女子といったところか。やはり恋愛事情には興味があるようだ。

「ノロケだったらノーサンキューやな。こう浮気とかドロドロした関係やないと聞いた気せえへん」

 他人事だと思って言っているのか、はたまた自分のことをよく知っているのか。七瀬の発言にドキリとしながら圭介は言葉を探した。

「そういうわけじゃないんですけどね。なんていうか、女心は難しいなって」

「ふうん。女心ねぇ。例えばどんな?」

 店員が運んできたお好み焼きをボールの中でかき混ぜながら七瀬は訊いた。

「例えば……こう手を繋ぐタイミングとか」

 悩み事は自分の浮気性なところなんて口が裂けても言えなかった。更にはセックスフレンドの同級生が二人いますなんて。気が付けば圭介の周囲はドロドロとした沼地のような関係になっていた。

「手を繋ぐタイミング?」と首を傾げながら伊織。

「それって女心なん?」と、お好み焼きを鉄板に広げながら七瀬。

「女心ではないですけど、まあそれに近しいものですよね。いやあ、付き合っていても難しいものです」

 自分でも言い終わっておかしいとわかったが、強引に進めるつもりだった。直進しか道は無い。

「なんか嘘くさいなぁ。ほんまはもっと別のことちゃう?」

「実は彼女が他の男のこと付き合っていたり?」

「それはないやろぉ。あの子、すっごい真面目な子やで」

 圭介が否定する前に七瀬が否定した。

「真面目な人に限って……っていうのもありますからね。押しに弱いというか」

 二人のやり取りを見ながら、どこかで見たことのある光景だなと思った。いわゆるデジャブだろうか。

「そうやけど、あの子は意志が固そうやんか。彼氏さんはちょっとあれやけど」

「ああ、そうですね。彼氏さんはすぐに浮気をしそうです。しかも相手に迫られるがまま」

「一番厄介な奴やんな。自分だけの責任ではないって開き直れるから」

 間違いなかった。あの絵梨花と奈々未に連れられてファミリーレストランへ行ったときと同じだ。この二人、もしかして仕組んでいたか。
 圭介が部活に参加していない日が何日か続いていた。その間、伊織が記事を書いていてくれたというが、同時に情報を共有しあっていたのではないだろうか。

 そう考えると、熱いお好み焼きを食べているのに腹部が冷めてくるようだった。湯気が立つ向こうでは、七瀬がヘラを使って器用にお好み焼きをひっくり返した。

( 2017/07/01(土) 00:38 )