第二十二章「都市伝説」
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 熱々のお好み焼きを食べながら談笑する。よくある青春ドラマの一コマのようで、圭介は感動を覚えた。そうだ。こういう展開を望んでいたのだ。
 部活終わりにみんなで食事へ行く。学校であったことを交えながら、同じ釜の飯を食べる。そんな展開に憧れていたはずなのに、いつの間にやら道を間違えてしまっていた。

 彼女も出来た。童貞も卒業できた。女友達といえる間柄かと聞かれればグレーゾーンではあるが、知り合いは出来た。傍から見れば順風満帆の学園生活を謳歌していることだろう。
 しかし、男女の比率が均等ではないせいで、自分はこんなことに巻き込まれてしまっているのだ。そうだ。全ては比率が均等で無いから、間違ったことが起きてしまうのだ。
 圭介は男女の比率のせいにすることにした。数の問題である。自分は巻き込まれてしまった、いわば被害者なのだ。女子校だと思って入学した伊織や、これまで女子高だったのが一転して共学になってしまった七瀬のように。

「どうしたん? そんなボーっとして」

「え? いや、何でも」

「たまに北野君ってボーっとするときあるよな。心ここに非ずみたいな」

「わかります。なんか違うことを考えているっていうか、心配事に頭を抱えているっていうか。借金のCMあるじゃないですか。それみたい」

 セックス以外でここまで饒舌な伊織を見たことがなかった。お好み焼きを囲って、まさか伊織がここまで七瀬と距離を詰めていたなんて。

「借金でもしてるん?」

 笑ってはいるが、七瀬の表情を読むに半分信じているようだった。

「そんなわけないじゃないですか。悩み事ぐらいありますよ」

「へえ。どんな悩み? お姉さんが聞いたるわ」

 Yシャツを腕まくりする七瀬の表情は生き生きとしていた。おおよそ、こんな彼女を見るのは初めてのことだ。

「私もアドバイスをできるかわからないけど、話は聞いてあげる」

 悩み事の一つに自分が入っていることを知ってか知らずか、伊織も楽しそうに名乗り出てきた。

「いや、いいですよ、そんな。思春期男子のくだらないことですから」

「ええやん。くだらないかどうかはこっちが判断することやし」

「思春期男子の悩みか。気になるかも」

「長くなってもええで。その前にもう一枚注文しておこうか」

 近くにいた店員を呼ぶと、さっさと注文をされてしまった。絵ばかり描いていて、おおよそそんな素早い動きなんて見たことがなかったというのに。

「で、悩み事は何? 彼女に関すること?」

「いや、まあ……そうです、かねぇ」

 適当に話を合わせておけばいいか。どうせ他人事なのだから。二人ともそこまで人のことに興味のあるタイプには見えなかった。
 質問をスルリスルリとかわしていけば、いつか解放されるだろう。

( 2017/07/01(土) 00:38 )