第二十二章「都市伝説」
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 別れると言われたのは、それから一週間後のことだった。いつもの場所で和也と昼食を取っていると思い出したかのように言われた。

「ああ、俺みなみと別れたから」

 あまりにもあっさりとした和也の言い方に圭介は冗談だと思い笑った。

「言っておくけど冗談じゃねえから」

 ぶっきらぼうに言ったが、表情は硬かった。

「マジで?」

「マジで。向こうから別れを告げて来たんだ。くそっ、俺が振ると思っていたのに向こうから振られるなんて」

 悔しさを滲ませているのは、プライドを傷つけられたというより、まだみなみのことが好きだったからではないのか。そう思ったが、邪推に過ぎないだろう。

「へえ。それは……まあ、ドンマイ」

 恋愛経験に疎い圭介にとって、別れを告げられることが相手にとってどれほどのダメージかわかりかねた。

「ドンマイじゃねえよ。あーあ。橋本嬢も留学するみたいだし、不幸っていうのは重なるもんだ」

 深く溜め息を吐く友人に圭介はかける言葉が見つからなかった。

「でもま、他の女を探せって暗示なのかもな。誰かいい女紹介してくれよ。新聞部だろ? そのコネを使ってさ」

「そんなコネなんてない」

「何のために部活に入ってるんだ。親友が困っているんだぞ。助けてやるのが友人ってもんじゃないのか」

「そんなことを言われてもねえ。協力したいけど、俺には無理な話だ」

 そうは言いながらも、頭の中で和也に合う女生徒を探す。ピンと来たのが伊織だった。マゾな伊織にとって、サディスティックな和也は肉体的にも合うのではないだろうか。

「おいおい。そんな無下に断わらないでくれよ。誰か一人ぐらいいるだろ?」

「相楽さんなんて合うんじゃないか」

「相楽? ああ、あの子か。人見知りが激しくてそもそも男嫌いに見えるな」

「そんなことはない。話せばわかる人だよ」

 クッキーを焼いて渡してくれる、いかにも女性らしい部分がある。軽い和也をどう見ているか知らないが。

「しかし重そうな女に見えてならない」

「どうだろうな」

 さすが和也だった。こと女性のことになると勘が冴え渡る。

「他には?」

 伊織以外の女生徒たちの顔が思い浮かんでいく。この学園に入ったおかげで女生徒の顔がよく思い浮かぶようになった。が、和也と合う女生徒はと考えると泡のように消えていった。
 その中で残ったのが日奈子であったが、妹の彼氏がこんな浮気性な女たらしだと思うと嫌悪感しか抱かなかった。日奈子の顔もポンと消えた。

「いないな」

「かー。一人だけかよ。こりゃあ出会い系にでも登録するしかないか」

 どこまで本気なのか。この男は必需品はと聞かれたら間違いなく「女」と答えるだろう。

「勝手にしろよ」

( 2017/07/01(土) 00:37 )