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「確かにそう考えると複雑ですよね。女子校だって聞いて入学したらその一年後には共学になるんですもん。まあ、俺なら手放しで喜びますけど」
和也はそう言って下品に笑った。この男の無神経さというか、肝の座り具合に感服するしかなかった。
「もちろん中にはそういう子もいたわね。年下の男の子へのラブロマンスを募らせて」
クスクスと笑いながら奈々未が言った人物がパッと頭に浮かんだ。料理部の秋元真夏だ。
「もしかして、料理部の部長ですか?」
和也も同じことを思ったようだ。
「正解。よくわかったわね」
「ある程度の女子は把握していますよ」
誇らしげに胸を反る和也に、圭介は羨望の眼差しで見る以外できなかった。ここまでハッキリと女好きを公言していれば、こんなことにならなかっただろう。
「和也ってばもう」
恋人に呆れているようなみなみだが、相変わらず袖口を握ったまま離そうとしないのはなぜなのか、圭介には全くわからなかった。
「まあまあ。男子も女子も同じよ。異性がいるだけで浮かれた雰囲気になっちゃったわ」
年長者の余裕だろうか。奈々未の発言はいつも男子を咎めるものではなく、むしろ理解をしてくれているようだった。きっとこんな状況でなければ、尊敬をしていたことだろう。
「それ私も思いました。なんか一年前と雰囲気違うなって」
「全体的に軽くなったわよね。まだ特殊な環境に変わりはないから、北野君たちが三年生か卒業する頃には落ち着くと思うけど」
ふいに名前を挙げられ、圭介はビクッと顔を上げた。奈々未と視線が合うと、彼女はニコッと微笑んだ。年上の女性に好意を抱く男子生徒の青春映画のワンシーンのようだが、現実は奈々未に怯えきっているだけだった。
「でもそうなると女性の数が減るのか。競争率も必然的に上がるし。できればこのままがいいなぁ」
呑気な同級生は身体をグッと伸ばしながら言った。この男の頭の中には常に女しかいないようだ。
「須藤君ってほんとそういうことしか考えていないのね」
生真面目な絵梨花にとって、和也はもはや別の惑星から来た住人のようだ。呆れたように和也を見ていた。
「いやあ、他のことももちろん考えていますよ。でもせっかくこの学園に苦労して入ったんですからね。努力は報われるというか、何らかの恩恵は受けたいなって」
「そうね。それも一つよね。自分は一筋だって、公言しておきながら流れに任せてホイホイ女の子を抱いてばかりの子よりも、須藤君みたいに最初から割り切っている人間の方がむしろよかったりもするかな」
奈々未が暗に誰を指しているのか。四人全員がわかっていた。