12
箱を運び終えると、圭介は手持ち無沙汰になった。手伝おうにも、何をしたらいいのかわからなかった。
「他に何をすればいいですか?」
「そうね。今からこのポスターを貼るから、ちょっと手伝ってくれる」
そう言うと麻衣は椅子を片手に移動を始めた。
「この辺でいいかしらね」
靴を脱ぐと、麻衣は椅子の上に乗った。圭介は画鋲とポスターを持って見上げた。
「ごめんなさいね。今時の子の短いスカートなら見えたかもしれないけど、先生のスカート長くて見えないでしょ」
圭介を見下ろしながら麻衣はクスリと笑った。
「いや、そういうつもりは……」
見えていないのに、恥ずかしそうに圭介は顔を背けた。
「冗談よ。ジョーダン」
柔和な笑みを見せると、麻衣は「よいしょ」と言いながら爪先立ちになり、ポスターを壁に貼った。圭介は椅子を押さえると、白いふくらはぎが見えた。
筋肉質とはいえないが、無駄な脂肪も無く、柔らかそうなふくらはぎだった。その上にはきっとこれまた柔らかそうな太ももがあって、女性らしい丸みを帯びた臀部があるはずだ。
「曲がってないかしら」
「ちょっと右が下がっていますね」
「これくらい?」
「そうですね」
画鋲でポスターを固定すると、麻衣が椅子から下りた。
「アニメとかだったらさ、ガクンとして男の子が『危ない』って受け止めるんだろうなぁ。それで女の子と密着して、お互い顔を赤くしちゃうの」
ベタな展開だ。しかし、もしそういう展開になったらどうしよう。理性を保てるか。
「あー。エッチなこと考えてるでしょ。もう。北野君ってほんとムッツリスケベなんだから」
思考を読まれたのか、麻衣に肩をべしべしと叩かれ、圭介は頭を掻いた。
「そんな俺、考えていることわかりやすいですか」
「そうね。ま、年頃の男の子の考えることなんて単純よ。特に北野君みたいなタイプはね」
隣に移動し、またポスターを貼っていく。
「俺みたいなタイプってどんなタイプですか」
「一見真面目そうに見えて、状況に流されやすいタイプね。真面目なんだけど堅物とまではいかなくて、むしろ人に流されて自分を見失っちゃうタイプ」
当たっている。養護教諭とだけあって、そういったメンタルの部分も熟知しているということか。
「すごいですね。当たってます」
「ま、みんな同じようなものだけどね。国民性みたいなものよ」
あっけらかんと言い放つ麻衣は、二枚目のポスターを貼り終えた。
「じゃ、次は反対側ね」
椅子から下りる麻衣から、香水のようなにおいがフワリと漂った。