04
嫌な予感はしていた。呼び出しを受けた瞬間から、何かあると思っていた。保健室でこうして会話しているだけで奈々未が満足するとは思えなかったが、ついにそのときがきてしまったようだ。
圭介は露骨に嫌な顔をして見せた。
「舐めるって、もちろんあそこをですよね」
しかし、それだけで許されるのならば舐めるつもりだった。弱みを握られているのだ。これは浮気なんかじゃない。
「違うわよ。さすが変態ね」
けれども、圭介の予想は外れた。意外であった。てっきり舐めて絶頂させろということだと思っていたのに。
「違うんですか? じゃあどこを」
「足の裏よ」
圭介の顔の前に足の裏が現れた。白くて綺麗な足の裏だった。
「あ、足の裏って本気ですか。冗談ですよね?」
また奈々未は自分をからかっているのだ。驚かせて、反応を楽しんでいるのだと思った。
「残念ながら冗談じゃないわ。ドラマのシーンでね、昔あったのよ。俳優が女優の足の裏を舐めるシーンが。あれって舐められる方はどんな気持ちか前々から気になっていたの。で、いいチャンスがきたなって。あなた足の裏を舐めるの好きそうだし」
とんだ偏見である。圭介は足の裏など生まれてこの方舐めたことなんて一度もなかったし、舐めたいとも思わなかった。
「勘弁してくださいよ。あそこだったら舐められますけど、足の裏は嫌です」
「そう言ってあそこが舐めたいだけでしょ。変態。でも、気持ちよかったら舐めさせてあげてもいいかしらね。で、そうするのかしら。拒否権はあるわよ。でも、拒否権を使ったらどうなるかわからないけど」
拒否権なんて、ないに等しかった。圭介は唇を噛んだ。まさか足の裏を舐める羽目になるとは。
しかし自分で蒔いた種である。これは罰だ。悪いことをしたのだから、罰が与えられたのだ。罰論は子供の頃から聞かされてきた。悪いことすればいつか返って来る――それがこのタイミングなのかもしれない。
「……わかりました。でも、舐めたらあのことは誰にも言わないでください」
「いいわよ。でもペロッとしただけじゃダメよ。私が『いい』って言うまでだからね」
「わかってますよ」
ムスッとしたまま圭介は奈々未の足首を掴んだ。そのまま足を鼻先に近付けるが、特ににおいはしなかった。無臭なのが救いだった。
「大丈夫よ。私の足は臭くないから」
「そうみたいですね」
口を開け、下を出そうとするのだが、なかなか舌が出てこなかった。人間としてのプライドがそれを邪魔していた。
絵梨花さん。ごめんなさい――圭介は心の中で謝罪すると、奈々未の足の裏を舐め始めた。