第十九章「罰」
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 一体奈々未はどうして自分を呼び出したのか。圭介はずっと疑問に思っていたが、口に出すことは出来なかった。彼女のことだから本当のことは話してくれそうにないと思っていたからだ。

「訊かないのね。あたしが君を呼び出した理由」

 しかし、それは圭介の思い込みだったようだ。奈々未は見透かしたように言ってきた。

「教えてくれるんですか?」

「暇潰しよ。保健室に一人でいて暇だったの。で、そういえば新しいオモチャがあったな、って」

 妹である日奈子にもオモチャ扱いをされるようになっていた。が、まさか奈々未にもそういう扱いを受けるようになってしまったとは。圭介は浅はかだった自分の行動を恨んだ。
 いや、そもそもみなみと和也の痴態を見たあの日からもうすでに橋本奈々未の中ではオモチャのようなものになっていたのかもしれない。格好の遊び相手。学園のクイーンに目を付けられて鼻高々といったところか。
 圭介はお手上げだといわんばかりに肩をすくめて見せた。

「サボリに付き合わされちゃ堪ったものじゃないですよ。橋本先輩はいいかもしれませんが、単位を落としちゃいます」

「あら。そんなにおバカさんなのかしら」

「そうですよ」

 和也みたいにドライに物事を考えられるほど器用な人間ではなかった。だからこそ、こうして奈々未に弱みを握られて困っているわけだが。

「ふうん。あなたが付き合っている生田さんは学年でも上位に入るのに、彼氏がそんな体たらくでいいのかしらね。あなたたちつり合っていないんじゃないかしら。むしろ星野さんとの方が合っていなくて」

 嫌味ったらしく言う奈々未は、自分たちを別れさせようとしているのだろうか。表情の読めない奈々未の考えがわからなかった。

「そんなことを言いにきたのなら、俺帰りますよ。まだ授業中ですし」

 教室には戻るつもりはなかった。適当にブラブラしていても教師に見つかるから、新聞部の部室で時間を潰そうと思った。

「つれないわねぇ。せっかくあたしと話しているのに。もっとお話しましょうよ」

 そう言った奈々未に手首を掴まれ、圭介はベッドに腰掛ける形になった。

「お話って、先輩体調が悪いんじゃないですか」

「低血圧だから午前中が辛いだけ。あとは、今日はなんとなく気分が乗らないから」

 それだけの理由で呼び出されたのか。オモチャというよりパシリのようだ。

「勘弁してくださいよ。そんなくだらない理由で呼び出すの。てっきりもっと重要なことだと思っていたのに」

「もっと重要なこと? あなたが彼女いるのに、同級生が付き合っている女の子とエッチしちゃったって話? ゴムは付けてたみたいだけど、フェラされて情けなくイっちゃったあの話のことかしら」

 圭介は気まずそうに唇を噛んだ。奈々未にはその様子が面白いようで、手を叩いて笑われた。

( 2017/06/26(月) 22:02 )