07
みなみの言葉に圭介は絶句した。今彼女は確かに「交換してみる?」と言ったはずだ。
「えっ……それは……」
「交換っていっても、生田先輩はいないし、させないけど。つまり、私と北野君だけ」
立ち上がるみなみを見上げた。みなみの顔は怒っているというよりも、開き直っているように見えた。
「それってつまり……」
「そ。前から気になってたんだよね。北野君のこと。ほら、和也とは全然タイプが違うっていうか。誠実そうに見えて、押しに弱そうだなって」
クスクスと笑いながらみなみは圭介の身体にツンツンと指を指した。
「いや、それはさすがにまずいよ」
「何が? 言いだしっぺは和也なんでしょ? ま、アイツが生田先輩から相手にされるとは思わないけど」
「そういう意味じゃなくて。俺が絵梨花さんを裏切ることになっちゃう」
「ああ。大丈夫よ。バレなきゃ。たぶんだけど。ね、私としたくない? みなみ、自分で言うのもなんだけど、なかなかイイ身体してるよ」
みなみの手が圭介の手首を握り、自分の胸元へ誘導させる。この手を振り払わなくては。そう思っているのに、身体が言うことを利かなかった。
おかげで手が柔らかなものに当たった。みなみはわざとらしく「ぁん」と声を上げた。
「ねえ、北野君ってテニスの衣装好き?」
「はあ。まあ。可愛らしいとは思いますけど……」
胸に手が触れただけで、圭介の身体がカッと熱くなった。心臓の音が早鐘を打ったかのように高鳴り始めた。
「じゃあリクエストにお応えしちゃおうかな」
そう言うと、みなみは手を離し、すぐ横にあるロッカーを開けた。中を見ると、ハンガーにかけられた制服が見えた。
「ちょっと星野さん」
ふいにみなみがジャージを脱ぎ始めた。圭介は慌てて立ち上がった。
「ん? これから着替えるから待ってて。見ててもいいけど、まだ襲うのはダメだぞ」
ウインクをすると、再びジャージを脱ぎ始めるみなみ。圭介は呆気に取られたように立ち尽くすしかなかった。
ジャージが脱がされていく。見てはダメだと思うのに、身体が動かなかった。上下とも黄色い下着姿になったみなみは、一度だけ圭介の方を見るとクスリと笑った。
折り畳まれているテニスウェアを取り出すと、焦らすように着始めた。衣擦れの音だけが部室の中でやけに大きく聞こえた。
「じゃーん。どう?」
上下ともテニスウェアを身に纏うと、みなみはロッカーを閉めた。クルリと身を反転させると、スカートがフワリと舞った。
「似合ってるかしら」
「ま、まあ……」
着替えたのは時間にしたら数分だった。しかしとても長い時間に感じた。緊張で唾液が少なくなったためか、はたまた久しぶりに口を開いたせいか、掠れた声しか出なかった。
「男の子ってテニスウェア好きだよねぇ。和也もたまにこの格好でさせてくれって言うし」
ケラケラと笑う同級生に、圭介はどんな反応をしたらいいのかわからず、困惑の表情を浮かべた。