04
昼になっても雨は止まないでいる。圭介と和也は新聞部の部室を昼食の場所に選んだ。教室とは違って、部室の中はとても静かだ。ここならみなみから言われた浮気癖のことを指摘できそうだ。
「で、どうだったよ。ヴァージンの味は」
席に着くやニタニタとしながら和也が訊いてきた。言葉遣いというか、言葉のセンスがみなみと似ているのはカップルだからなのだろうか。
「まあ、悪くはなかったよ」
思い出すだけで赤面して勃起しそうだった。あの凛とした絵梨花の乱れた姿。破瓜の痛みに耐え切った彼女だが、それは圭介も同じだった。
シャワーの湯が当たると圭介は顔を歪ませた。絵梨花の爪が深く突き刺さっていた背中の傷は酷く、絵梨花は何度も謝った。シャワーを浴び終えると傷薬を塗ってくれたのだが、今朝鏡越しで背中を見ればまだ傷跡が生生しく残っていた。
「『悪くはなかった』とか。ずいぶんと上からだな」
ゲラゲラと笑う和也に圭介は顔をしかめた。
「そういう意味じゃない。言葉のあやだ」
「ま、あ悪くなかったらよかったじゃないか。ゴムもちゃんと付けただろ?」
「ああ。それは感謝しているよ。ありがとう」
実際に和也がコンドームを用意していなければ、自分が買っていたはずである。しかし、これからもセックスをするのであるならばいつまでも和也を頼ってはいられない。いつか自分で買わなくては。
「なあに。お安い御用さ。まだ余っているから何個かあげるよ」
「いいよ。自分で買う」
「安くはないぜ」
思わずパンを齧ろうとしていたが、和也のその言葉で止まった。
「そうなのか?」
コンビニで売っているところは見たことがあるが、値段までは見ていなかった。せいぜい菓子類と同じぐらいだろうと思っていた。
「そりゃあ安いのも探せばあるかもしれなないけど、百円とか二百円じゃないからな。しかもセックスを覚えちまったらいくら何個もあっても足りねぇよ」
絵梨花はどうか知らないが、毎日でも彼女を抱きたい気持ちはあった。言われてみれば確かにそうかもしれない。
「そうだよなぁ」
「男の俺たちでもそうだけど、女だって似たようなものさ。生真面目な生田嬢だってセックスの味を覚えちまえばヤリたくて仕方がなくなるだろう」
「それはどうかわからないけど」
こと女性に関しては勘の鋭い男である。和也の慧眼ともいえるそれが間違っていなければ、避妊具を用意するだけでも金銭的な負担は減らしたいところだ。
「おまけに相手はお嬢様だろ? デートはどうするんだ。まさかメシは小汚いラーメン屋ってわけにはいかないだろ」
そうなのだ。デート代も考えなくてはならない。休日になるだろうから、洋服も買わなくては。圭介の頭の中で金銭ばかりが膨らんでいく。
「大変だな」
圭介がポツリと漏らすと、和也は声を上げて笑った。
「他人事みたいに言うなよ」