05
「好きです。絵梨花さんのことが」
いきなり押し倒したから、絵梨花の目は怯えを見せていた。けれども、圭介の言葉に怯えを見せていた目は、柔和な目に変わった。
こんなにも目だけで変わるものか――そう思いながら圭介は絵梨花にさらに顔を近づけた。
「私も好き。圭介君のことが」
彼女の唇が動くと、吐息がぶつかった。先ほど飲んだジュースの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
我慢なんて出来るはずがなかった。圭介の意図を汲んだのか、絵梨花は目を閉じた。それは許可を下ろした瞬間でもあった。
柔らかな感触がした。触れ合った瞬間、圭介は身体に電流が走ったような衝撃を覚えた。好きな人とのキスがこんなにも衝撃的で、それでいて気持ちのいいものだなんて……。
離しかけた唇を再び押し付けると、胸の辺りをドンドン叩かれ、圭介はハッとした。つい暴走しかけてしまった。慌てて顔を離すと、閉じていた絵梨花の目が開いた。
「ごめん」
「違うの。重たくて苦しかったの」
どうやら拒絶されたわけではなかったようだ。圭介は安堵の溜め息を漏らした。
「よかった。嫌われたのかと思った」
「違うって。圭介君って意外と、でもないけど心配性なんだね」
クスクスと笑う絵梨花のおかげで、雰囲気は一気に軽くなった。
「しょうがないさ。初めての彼女で、どうしたらいいのか全然わからないんだ」
セックスは済ませているとはいえ、恋人は初めてだった。ましてや以前強姦まがいのことをしてしまった相手でもある。腫れ物を扱うような扱いになってしまうのは自業自得とはいえ、当然のことだった。
「それは私も一緒」
乱れた服を直す絵梨花に、圭介はちょっかいを出した。肩口にかけられたワンピースの紐を外した。
「ちょっと」
「もう一回しよ」
「何を?」
表情を見れば、何をしたがっているのかわかっているようだった。
「わかってるくせに」
再び圭介が押し倒そうとすると、逆に絵梨花の手が圭介を押し倒した。
「今度は私から」
絵梨花の顔が近付いてくる。ガラスのような瞳には自分が映っていた。
「もう。するときは目を閉じて」
視界が柔らかい手で塞がれた。どうして女性というのはこんなにも柔らかい生き物なのだろう。胸や尻はわかる。しかし手なんてさして男と変わらないのではないか。
圭介がそう思っていると、唇に温かくて湿った感触が伝わった。が、すぐに離されてしまった。
「短い」
視界はまだ遮られたままだが、圭介は手を伸ばし離れかける絵梨花の後頭部を押さえつけ、再び自分の方へ近づけた。