04
圭介にとっては退屈なものだった。一度観てしまったのもあるが、いかんせんホラー映画で肝心な恐怖を感じるシーンが少ないのだ。淡々と流れ続けるシーンはもはや学校の授業のようで、圭介は眠気をこらえる方ばかりに意識がいった。
「こ、怖いね……」
横から絵梨花の声が聞こえたのはわかるのだが、何を言っているのかわからなかった。外国語のように聞こえ、圭介は目をしばしばさせながら反応した。
「え? 何か言った?」
「怖いの……圭介君は平気?」
今度はハッキリと聞こえた。が、平気どころではない。退屈で仕方ないのだ。こんな物でも助かったと思ったが、いかんせん程度が知れていた。
「平気かな。そんな怖くないよ。この作品は」
「そうなんだ。やっぱり男の子だね。何だか安心しちゃった。ほら、ホラー映画で怖がる男の子って、なんだか弱そうっていうか。護ってくれなそうなんだよね」
圭介としてもさほどホラー映画に耐性があるわけではない。しかし自分の肩に頭をもたれかけてくる絵梨花に、眠気が完全に吹き飛んだ。
「え、絵梨花さん?」
「ダメかな。ずっとね、笑うかもしれないけど、彼氏が出来たらこうしたかったんだ」
画面では遺体となった男が雨に打たれていた。シチュエーションの中では恋愛映画を観て、自分たちも甘い雰囲気になれたらいいなと想像していた。
まさかそれがホラー映画で実現するとは。圭介は急に喉の渇きを覚え、買ってきたジュースをゴクリと飲んだ。
「美味しい? それ」
「え? ああ、まあまあ」
緊張で味なんてよくわからなくなっていた。
「ちょっとちょうだい」
絵梨花の細くて白い手が伸びてきて、圭介の手からジュースを奪った。
肩が軽くなる。絵梨花が今自分が飲んだ物を口に運んだ。間接キスだ――。
「ふうん。ねえ、圭介君ってこういう飲み物が好きなの?」
白い喉がコクリと動いた。目と目が合う。
「……う、うん」
圭介はその目から離れられなくなった。一点の濁りもない透き通ったまさにガラスのような目。視線を奪われるとは、まさにこのことだと圭介が思った瞬間、ガラスのような目が逸れてしまった。
「そうなんだ。じゃあ今度から私もこういうの飲むね」
絵梨花の言っていることがわからず、圭介は首を傾げた。
「彼氏が出来たらさ、味の好みも一緒になりたいんだ。もちろん全部は無理かもしれないけど、出来る範囲で」
絵梨花は恥ずかしそうに言った。
「絵梨花さん……」
それが堪らず愛おしかった。こんな気持ちは初めてだった。
愛おしい――言葉では聞いたことがある。けれども、それを実際に思ったのは初めてのことだった。圭介の身体は自然と動き、絵梨花を柔らかく押し倒した。