03
コンビニから歩いて数分で絵梨花の自宅に着いた。てっきりリビングに通されると思ったら、あにはからんや案内されたのは絵梨花の自室だった。何でも彼氏なんだから、リビングじゃなくて自室でしょというのが彼女の持論だった。
まさか自室に呼ばれるなんて思わなかった圭介は、猫のように周囲を警戒しながら部屋の中に入った。ピンクと白を基調としており、柑橘類のにおいがフワリと漂う部屋だった。
「そんなジロジロ見ないでよ恥ずかしいから」
白いラグの上に恐る恐る座ると、クッションで目を隠された。視界を奪われたがその分鼻に意識が行き届いたのか、柑橘類とは違うにおい――絵梨花のにおいがした。
それだけで早くも圭介のペニスは反応を見せ始めた。ズボンの下でピクピクと蠢く愚息に鎮まれと命令しても、無視するかのように膨張を始めた。
「じゃ、じゃあ早くDVD観ません? 時間も限られているので」
生田家は知らないが、北野家に門限なんてなかった。しかし相手の家にそんな長居なんてしていられないだろう。
圭介は自分の命令を無視するペニスを何とか鎮めさせようと、さっさとDVDを観ることを提案した。
「そうね。何がいいかしら」
DVDを持って行くと言ったのは圭介である。プレゼンをはっきりと意識したわけではないが、それでも自分の好みではなく、なるべく絵梨花が好きそうな物を持ってきた。
「んー。どれも観たことあるなぁ」
しかしそんな圭介の努力は徒労に終わった。
「マジっすか?」
「うん。マジ。お姉ちゃんが好きでよく一緒に観ているんだよねぇ」
圭介が持ってきたのは映画化した恋愛物が多かった。アニメを見るようなタイプではないだろうし、それが一番無難だと思っていたが、当てが外れてしまった。
「じゃあどうしようか」
苦笑いでごまかしているが、焦りが生まれた。早くも出鼻をくじかれたようだ。
「うーん。観たことがないのは、これかなぁ」
そう言って絵梨花が手に取ったのはホラー映画だった。ホラー映画なのに恐怖を感じるシーンが少ないから、圭介としては物足りない作品ではあったが、念の為に持ってきていた。
「ホラー映画だよ。大丈夫?」
絵梨花はホラー映画が好きなのだろうか。
「実はあんまり観たことがないんだよね。お姉ちゃんが嫌いだから。これって残虐なシーンって多い? 私そういうのは苦手なんだけど」
「いや、ほとんどないよ。じゃあ、これにしようか」
まさかこれが選ばれるなんて露にも思わなかった。何の取り得もない自分を選んでくれたように、圭介はこのDVDに親近感を覚えた。