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結局圭介が絵梨花とのデートに選んだのは、彼女の自宅でDVDを観ることだった。本当は映画館でも構わなかったのだが、彼女がこれといって観たいのがないから、自分の家でDVDを観ようと言い出したのだ。
絵梨花の家に行ける――それはひどく圭介を興奮させると共に、緊張感を与えた。初めてのデートがすでに相手の本丸である。日曜日だから家族は誰かしらいるだろうが、彼女の部屋に上がりこむということを考えると、腹部の辺りが重たく感じてならなかった。
早く当日が来て欲しいと願う反面、相手に急な予定が入って流れてしまえばと、どこか心の片隅で哀願する自分がいた。こんなにも緊張感を虐げられるのは、この学園に入学するための試験を受けたとき以来だった。
圭介の哀願は空しく、いつものように日曜日を迎えてしまった。天気予報を毎日のように見ていたが、依然として天気は快晴で、当日も予報通り快晴の空だった。
ああ、ついにこの日が来てしまった。約束の時間は午後の一時からだった。昼食は摂って来てくれという先方の願いだったが、とてもじゃないが昼食を食べられる気が起きなかった。
昨夜は意外と眠れた。だから当日もさして緊張しないだろうと思っていたはずなのに、ベッドの上から動けないのが情けなくて仕方なかった。
きっとデートに慣れている和也なら何てことはないのだろう。考えないようにしなくても、和也の言葉が頭から片時も離れることはなかった。
これはプレゼンなのだ。相手の気持ちをおもんぱかって進めなくてはならない。深く考えまいとするのに、どうしてもその言葉が呪詛のように圭介の気持ちをがんじがらめにした。
時計の針は刻一刻と時を刻む。十時過ぎに起きた圭介だが、一時間近く経つというのに何一つしていなかった。ただ抜け殻のようにベッドに寝転がっているだけ。
ずっと前から当日の動きはシミュレーションしてきた。何時ぐらいに起床して、何時までに入浴を済ませ、何時に家を発つか。圭介が頭の中に描いたシミュレーションを出来たのは起床時間だけだった。
たかがデートである。されどデートだった。これまでのように男友達の家に遊びに行くわけじゃない。恋人同士となってしまってからの相手宅への訪問は、敷居がグンと上がったようだ。
日奈子は母親と先ほど買い物に出かけた。圭介も誘われたが、予定があるからと断わった。母親は気にも留めないようだったが、日奈子はすぐに感付いたようで、親指をビシッと立ててくれた。
そろそろシミュレーションでは入浴になるところだった。さすがに風呂だけは入ろう。圭介は重たい身体を引きずらせるように浴室へと向かった。