第十六章「オモチャ」
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 浴槽の縁に座らせ、足を開かせると、毛で覆われた女性器が丸見えとなった。濡れた陰毛に日奈子が用意したというクリームを塗りこむと、圭介はいざカミソリを手にした。
 髭剃りはしたことがっても、陰毛を剃るのは初めてのことだ。まして人の陰毛なんて、考えたこともなかった。

「じゃあ、剃るぞ」

「痛くしないでね」

「善処する」

 緊張のあまり喉がカラカラで、心臓がドクドクと音を立てている。圭介は震える手でカミソリの柄を握り直すと、まずは広い部分を剃ることにした。
 濡れて白い泡に包まれた毛をサッとカミソリの刃が滑った。が、力が弱すぎたのか、はたまた毛が剛毛のせいか上手く剃れなかった。

「難しいな。そもそもハサミで切っちゃえばいいんじゃないか」

 そうだった。わざわざカミソリで剃る必要なんてどこにもなかった。ハサミで形を整えておけばいいのだ。
 どうしてそんな単純なことに気が付かなかったのだろう。圭介はカミソリを片手に、視線を女性器から上に向けた。

「いいから。続けて」

 が、圭介の要望は即座に却下された。どうやらカミソリでなければならないようだ。

「わかったよ」

 このまま押し問答を続けても無駄だった。諦めた圭介は再び毛を剃り始めた。

「何だか面白いかもしれない」

 広い部分を剃っていくと、圭介は楽しさを覚え始めた。剃った場所がツルツルになるのだ。毛が付着した泡を指で落としてやれば、ツルツルとした肌触りに変わっているのが面白かった。圭介は夢中で剃った。

「じゃあ今度は下か。難しそうだな」

 デルタ地帯は全て剃った。黒いブツブツが見えているのがかえって卑猥に見えたが、圭介の頭はすでに割れ目の近くの毛の処理に追われていた。

「うん。気を付けてね」

 心なしか日奈子の顔も強張りを見せている。

「あたしもね、前にあんまりにも濃いから剃ろうとしたんだ。でも、ここは一人でやるには難しくて」

「そっか。そうだよな」

 日奈子の毛深さは誰に似たのだろう。圭介も、両親はさほど濃くないが、女の子ならば毛深いのは可哀想だった。

「じゃあ剃るぞ」

 クリームをたっぷりと塗り、割れ目を傷つけないように慎重にカミソリの刃を当てた。

「んっ……」

 くすぐったいのか、はたまた敏感なところだから感じてしまっているのか、日奈子から漏れる吐息に反応しないよう圭介は何とか毛を剃っていく。

「ふう。これでいいかな」

 シャワーで洗い流してやると、小さな子供を思わせるような毛の一本もない綺麗な縦筋に変わっていた。

「ありがとう。これでプールの時間も安心だね」

 日奈子からお礼を言われて圭介は気が付いた。剃ってくれとは言われたが、全て剃れとは言われていないのだ。

「毛がないけど大丈夫なのか」

「うん。なんか言われたら『お兄ちゃんに全部剃られちゃった』って言うもん」

「勘弁してくれよ」

 日奈子にまた掌の上で踊らされたような気がする。圭介は湯船の中に顔ごと潜り込んだ。

「お兄ちゃんはもう私のオモチャなんだから、覚悟しなきゃ」

 圭介が湯船から顔を上げると、日奈子が何か言っているのが目に入った。

「え? なんて言った?」

「内緒」

 強引に日奈子が浴槽へと入ってきた。風呂の湯はまた勢いよく流れ落ちて行った。

■筆者メッセージ
おもちゃ。オモチャ。玩具。
同じ意味なのに、書き方を変えるだけで受ける印象って変わってきますよね。
( 2017/06/26(月) 21:33 )