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「お前なに言っているんだよ」
冗談だとは思いつつも、今の日奈子ならありそうだとも思えた。もう二人はこれまでの関係ではない。兄妹の関係から男女の関係になっているのだ。
「いいじゃない。ね、入ろうよ。お願いしたいこともあるしさ」
圭介は眉間に皺を寄せた。
「お願い?」
とてもじゃないが、いいこととは考えにくかった。
「そ。難しいことじゃないよ。ほら、早く。日奈子先に行っているよ。もし来なかったら、お母さんに言いつけてやる。お兄ちゃんが無理やり襲ってきたって」
昔から両親は日奈子にだけは甘かった。妹という立場を最大限利用するのが日奈子であり、それを甘受するのが両親なのは北野家にとってもはや普通のことだった。
だから、涙ながらに日奈子が圭介に襲われたと嘘をついたら、両親はそれを信じるだろう。圭介に拒否権はないに等しかった。
日奈子が部屋から出て数分。圭介は溜め息をつきながら風呂場へ向かった。こうなってしまったのも少なからず自分にも非があるのは間違いなかった。
脱衣所から聞こえてくるシャワーの音。かごの中には適当に入れられた日奈子の服があった。
「ようやく来た。言っておくけど、パンツで変なことしないでね」
浴室の扉が開いたかと思えば、髪を濡らした日奈子が顔を出した。
「しないって」
妹と一緒に入浴するのは小学生の頃以来だった。もう二度とすることはないだろうと思っていたのに。圭介は頭を真っ白にして入ろうと決めていたが、いざこの先に裸の日奈子がいると思うと自尊心を抑えられるか心配だった。
ふいに日奈子の中で出してしまったことを思い出し、身体がヒュンと冷えた。妊娠でもしたら……圭介は頭を掻き毟ると、開き直ったように洋服を勢いよく脱いだ。
「ずいぶん時間がかかったね。変なことしなかったよね?」
浴室は湯煙が立ち込めていた。日奈子はちょうど身体を洗い終えたようだった。
「してないって」
「なんか機嫌が悪いね。どうして?」
「別に機嫌なんて悪くない。ただ、お前と入るのが恥ずかしいだけだ」
彼女が出来たら、もしかしたら一緒に入浴するときがくるかもしれないと漠然と考えていた。しかし、その初めての相手が絵梨花ではなく、大きくなった妹の日奈子とは。
「ふうん。もうエッチしたのに。はい、あたしはもう洗ったから」
日奈子はそう言って洗い場から離れると、浴槽の中へと浸かった。なるべく姿を見ないようにしようとしているのに、チラチラと見てしまう自分が情けなかった。日奈子はタオルで身体を隠すことなく、生まれたままの姿だった。
「お前隠せよ」
「なんで。湯船の中にタオルはダメなんだから、お兄ちゃんこそタオルで隠しちゃダメでしょ」
隙を突かれ、圭介が下腹部を隠していたタオルが盗られてしまった。