第十六章「オモチャ」
06
 最初はぎこちない動きだったが、次第にコツを掴んできたのか、それらしい格好になった。身体の上で嬌声を上げる日奈子に、圭介は満更でもなかった。
 そう。口ではダメだと言っておきながらも、いざこうして行為が始まって相手が悦びの声を上げれば、男である圭介は悪い気はしなかった。和也から比べればまだまだかもしれないが、それでも男としてのプライドがあった。

「あぅ! そこ、そこぉ!」

 一心不乱に突く。日奈子の中を突き抜けるようにイメージをすると、ベッドが激しく軋んだ。親がいないことをいいことに、二人は自分たちの世界に完全に入っていた。

「くっ、そろそろイキそうだ」

 額にうっすらと汗をかき始めた頃だ。圭介は息を弾ませたままそろそろ限界が近いことを伝えた。

「うん、あたしも、イキそう」

 途切れ途切れの声でそう言われ、圭介は最後の力を振り絞った。

「ああああ、ヤバい。イク、イク!」

 射精感が一気に押し寄せてきて、圭介はハッとした。このままでは中に出してしまう。

「日奈子退いてくれ!」

「無理だよ!」

 圭介に身を委ねているから、日奈子は急には動けなかった。下にいる圭介もまた何とか結合部を解こうとするが、日奈子が上に乗っているせいでそれは叶わなかった。

「あっ……」

 やがて圭介は果てた。スペルマがドクドクと日奈子の中に注がれていくのを感じながら、圭介はやってしまったと顔を歪ませた。

「やっちまった……」

 ペニスからスペルマを出し切ると、圭介は顔を手で覆った。まさか妹とセックスをしてしまった上に中に出してしまうとは。

「えへへ。やっちゃったね」

 日奈子もバツが悪そうに頭を掻くと、結合部を解いた。
 よくアダルトビデオで見るように女優が中に精子を出されたら女性器から溢れ出る描写があるが、日奈子の女性器からは圭介が出した精子は出てこなかった。

「ああ……どうすりゃいいんだ……」

 圭介は泣きたかった。これで妊娠なんてしたらと考えるのが怖くて、それ以上のことを考えられなかった。

「ダイジョーブだよ。たぶん」

 暗たんたる気持ちを抱えている圭介に対し、日奈子は楽天的だった。それが羨ましいと思う反面、無責任なように思えて、つい圭介は声を荒げた。

「大丈夫じゃないだろ! もし妊娠でもしたらどうするんだよ」

 いきなり圭介が声を荒げるものだから、日奈子はビクンと身体を竦ませた。

「……そう、だけど。ダイジョーブ、だと思うな」

 最後は消え入りそうな声だった。圭介は行き場のない怒りを日奈子にぶつけてしまったと、すぐに反省した。

「ごめん。お前に対して怒っているわけじゃないんだ」

「うん。わかってる。あたしも軽率だったね」

 間が訪れた。圭介はベッドの上で大の字になって顔を手で覆っており、日奈子はその横で物憂げに指先でシーツに円を描いている。
 何かを言わなくては。時計の針は戻せないのなら、いつまでもこんなことをしていても無駄だった。会話の糸口を頭の中で必死に探すと、ポツリと浮き出てきた。

「風呂でも入ろう。汗もかいたし」

( 2017/06/22(木) 15:59 )