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さて。射精をしたとはいえ、状況が変わったわけではない。下腹部を情けなく露出させられたまま、この後のことを考えると、それ以上先に進むことは明らかに人の道を踏み外しているとしか思えなかった。
このまま日奈子を追い出してしまおうか――頭の中でそんな考えが思い浮かんだが、情けなく射精をさせられたまま追い出してしまっては兄の威厳も関わる。
かといって、日奈子の女性器に愛撫をするのかと聞かれれば、即答できる自信がなかった。汚いというよりも、いよいよ人としての終わりが見えた。
「気持ちよかった?」
そんな圭介の気持ちを知ってか知らずか、日奈子は無邪気な顔をしたままだった。まだ硬く勃起したままのペニスをベタベタと触り始めていた。
「まあ、うん。そう、だな」
射精をしたのだから、気持ちよくないわけがなかった。しかし、気持ちの面で複雑だった。
「へえ。まあそうだよね。ふうん」
「何だよ。歯に物が挟まった言い方をして」
「別にぃ。自分だけ気持ちよくなって寝るのかなぁって思ったりしてさ」
尿道に残ったスペルマを指先で広げられ、圭介は思わず吐息を漏らした。
「しょうがないだろ。勝手にそっちがやってきたんだから」
「そうだけどさぁ。冷たいよねぇ」
日奈子が何を望んでいるのか、圭介にはおおよそ見当がついていた。しかし、それをしてはいけないのだ。絵梨花を裏切ってしまう。
「うるさい。もうこれ以上はないんだ。さ、寝るぞ。不満があるなら自分の部屋に戻りなさい。雷も止んだことだし」
今まで気が付かなかったが、雷はとうに止んでいるようだった。これならば日奈子はいつも通り一人で寝られるだろう。
そうだ。これはちょっとしたハプニングなのだ。お雷に気が動転してしまったことによるハプニング。朝が来ればお互い変なことをしてしまったと、顔を赤らめることだろう。
無理やりそう結論付けた圭介はペニスをしまってゴロンと横になった。眠れる気がしなかったが、現実から目を背けるように目を閉じた。
「ブー。ケチぃ」
横に人が寝る気配がした。どうやら日奈子は出て行く気はないようだ。それはそれで仕方がない。無視を決め込んでいればすぐに諦めるだろう。
「おい寝るのかよぉ。あたしはまだ眠くないぞ。相手しろよー」
髪の毛を引っ張られ、まぶたをつねられても圭介は反応しなかった。さすがに股間を撫で回されたときにはペニスが反応を見せたが、日奈子はそれ以上してくることはなかった。
これでいい。どれぐらい時間が経ったのかわからないが、日奈子も諦めてくれたようで、ちょっかいを出してこなくなった。このまま寝たふりをしてやり過ごせばきっと今まで通りに戻るはずである。
「ん……あんっ……」
静まり返った部屋で甘ったるい嬌声が聞こえ始めたのはそんなときだった。