05
サラサラとした指通り。女の髪の毛というのはどうしてこんなにも柔らかくてツヤツヤとしているのだろう。
圭介が日奈子の髪を梳かすように撫でていると、日奈子はようやく落ち着いた風だった。
「ねえ、“お兄ちゃん”」
ふいに呼ばれた“お兄ちゃん”という言葉に圭介はドキリとした。ただでさえ妹の髪を撫でてやるのは久しぶりだというのに。特殊な環境下がいつもの関係を崩していた。
「なんだよ」
動揺を見せつけまいと、圭介はぶっきらぼうに答えた。
「その……彼女、生田さんとはもう“したの”?」
それが暗にセックスを意味していることはすぐにわかった。まさか日奈子の口から出てくるとは思ってもいなかった圭介は、撫でる手を止めた。
「止めないで」
おねだりをするように、日奈子は頭を突き出した。
「あ、ああ。悪い」
再び動き出した手は、先ほどよりもぎこちなくなっていた。
「で、どうなの?」
まだ充血を残しているが、子犬のような円らな瞳だった。清らかな瞳。自分の目はきっととっくに濁ってしまっているだろう。
「……してないよ」
「他の人とも?」
間髪入れずに訊いてくる日奈子に、圭介は頭を掻いた。
「……した」
「誰と?」
嘘をつこうか迷ったが、本当のことを言うことにした。さすがに半ば強引に襲われたことは伏せておいた。
流れの中で――同級生とふいに過ごした“空気”が二人の距離を急速に縮め、事を及ばせた。そう。圭介は“空気”のせいにした。そういう“空気”だったのだ。
「で、なんでそんなことを訊くんだ」
「うん。あのね。学校で“そういう話”があるんだ。誰と誰が付き合っていて、もう“した”とか、まだ“して”ないとか」
まあ、そうだろうな。圭介は日奈子が質問をしてきたときから、薄々感づいていた。環境がいつもの日奈子を徐々に変えていた。
「日奈子はどうなんだよ」
「あたしはまだしてないよ」
「好きな男の子とかいないのか?」
「……全くいないわけじゃないけど、別にそういうことをしたいわけじゃないし。あたしはフツーがいいの。フツーにデートがしたいだけ」
健全な付き合いを方を望んでいるのは血の繋がった兄妹だからか。圭介も以前まではそう考えていたし、絵梨花との関係はできることならばそうしたいと思っている。
「てか、全くいないわけじゃないって、複数人いるってことか?」
「あくまでちょっといいかなって思っているだけ。別に全員と付き合いたいわけじゃないって言うか……あー。もう。よくわからないの」
そう言って、ジタバタともがいたかと思えば、日奈子は亀のように顔をスッポリと布団の中に埋めてしまった。