03
“何か”が裂けるような音が聞こえたのは、夜の十時を過ぎた頃だった。バリバリと引き裂かれる音が聞こえた圭介は、何事かとカーテンを開けると、稲光が見えた。
雷だ。そう思った瞬間、再び音が鳴り響いた。窓を閉めているのに大きな音が圭介の鼓膜を揺らした。と、雨の音が聞こえ始めた。文字通り叩きつけるような雨が降り始めた。
“何か”の正体がわかった圭介は、しばらく窓辺を見ていたがやがて飽きたようにカーテンを閉じた。帰宅していれば問題ではない。
明日は雨だろうか。そうなると、バスで学校へ向かうことになる。絵梨花と初めて出会ったのは、バスの車内である。事故とはいえ、ふいに触れた尻の感覚。まさかこうして付き合うことになるとは。
圭介が絵梨花との邂逅に耽っていると、扉が開き、“何か”が勢いよく室内に入ってきた。ギョッとして見ると、日奈子だった。
雷のあとは妹か。おそらく突然の雷鳴に怖がった日奈子が避難して来たのだろう。生意気な妹であり、自分のことを毛嫌いしている節のある奴だが、こうして雷程度で怖がるところは可愛げがあった。
「どうしたんだ」
ニヤニヤとしながら圭介は尋ねた。蒼白な日奈子の顔を見ると、悪戯心がムクムクと湧いて出るようだった。
「べ、別に。暇だから訪ねに来てあげたの」
強がる日奈子だが、再び雷が鳴り響くと、悲鳴を上げながら身を竦ませた。
「違うだろ。雷が怖いから避難してきたんだろうが。正直にそう言えよ」
「……ま、それもないとは必ずしも言えないわね」
冷静さを努めているが、明らかに動揺した素振りを見せている日奈子。それを見ているだけで笑い転げそうだった。
「意地っ張りな奴だ」
圭介の言葉に「フン」と鼻を鳴らしながら日奈子はベッドに腰掛けた。
「いいのか。そこは俺が普段から寝ているベッドだぜ」
先ほど汚物扱いをされたことを根に持つように、圭介はここぞとばかりに指摘した。
「本当はよくないけど、緊急事態だし。ま、まああたしのお尻で除菌をしてあげるわよ」
苦し紛れの言い訳が面白かった。
「お前のケツで除菌なんてできるわけがないだろ。どうせブツブツだらけのケツなんだから」
「そんなわけないでしょ。桃みたいに綺麗なお尻よ」
「いいや。汚いケツだ」
「ケツケツ言うな」
枕が飛んできて圭介の顔に当たった。
「おい。人の枕を投げるな」
「いいじゃない。って、臭いから投げ返すな」
「人の枕を臭いと言うな」
「事実じゃない」
枕が宙を舞う。キャッチしては投げ返す。
二人は子供のように枕を投げ合った。