第十三章「タイミング」
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 突然の未央奈の告白に、圭介の頭は真っ白になった。何も考えられない。その代わり、心臓の音がドクドクと聞こえ始めた。

「……じょ、冗談、だよね?」

 冗談だと言ってほしかった。ジョークだと笑ってほしかった。
 けれども未央奈は無言でかぶりを振った。

「冗談なんかじゃない。本気」

 低い声だった。耳に残るような声だった。

「……ごめん。俺、付き合っている人がいてさ」

 もし、タイミングがズレていたらどうなっていただろう。届かない高嶺の花である絵梨花を諦め、未央奈の告白を喜んで受けていただろうか。
 このタイミングで。圭介は非情なタイミングを恨んだ。

「だったら――」

 てっきりわかったと引き下がってくれると思っていたが、また続きがあるようだ。

「私のこと、セフレにしていいよ」

「は? セフレ?」

 未央奈の言葉の続きは異国の言葉のようだった。

「そう。セフレだったらいいでしょ」

「いやいや。いいわけないっていうか、意味がわからないよ。セフレの意味を知ってて言っているの?」

 間もなく午後の授業が始まる。生徒たちは足早に二人を追い越していく。

「もちろん。ね、いいでしょ。あれだけ私の中に出したってことは、相性がバッチリっていうことなのよ。彼女さんとはもうしたの?」

「そ、そんなこと堀さんには関係ないじゃないか」

「もしかしたら、身体の相性が悪いかもよ。私とみなみの彼氏の子みたいに。そのとき、悶々とするぐらいなら、相性のバッチリな相手がいるのといないのでは、まるで違うと思うの」

 それらしく言っているが、未央奈の持論は世間で言う常識からは逸脱していた。

「そんなことを言ったって……」

「セックスは重要よ。付き合う上で大事なファクターなのは間違いないわ。性の不一致で離婚する夫婦だっているぐらいだし」

「それはそうだけど……何もそれが全てではないでしょ」

 様々なことが積み重なり、バランスを失ってしまっただけ。性の不一致はその一つの要因にしか過ぎない。圭介はそう思っている。

「もちろんそうよ。ね、彼女さんには黙っているし、絶対にバレない自信がある。だから私をセフレにして」

 学校でこんなことを言うなんて。この女の性欲はもはや病気だ。圭介の目は異物を見る目ではなく、憐れなものを見るような目だった。

「……無理だよ。ごめん。俺には無理。他を当たって」

「今すぐ答えをほしいわけじゃないの。じっくり考えて。もしあれだったら、もう一度してからでもいいから」

 未央奈の横を通り過ぎ、教室へ行こうとする圭介の背にそんな声が聞こえた。

( 2017/06/19(月) 22:15 )