04
突然の未央奈の告白に、圭介の頭は真っ白になった。何も考えられない。その代わり、心臓の音がドクドクと聞こえ始めた。
「……じょ、冗談、だよね?」
冗談だと言ってほしかった。ジョークだと笑ってほしかった。
けれども未央奈は無言でかぶりを振った。
「冗談なんかじゃない。本気」
低い声だった。耳に残るような声だった。
「……ごめん。俺、付き合っている人がいてさ」
もし、タイミングがズレていたらどうなっていただろう。届かない高嶺の花である絵梨花を諦め、未央奈の告白を喜んで受けていただろうか。
このタイミングで。圭介は非情なタイミングを恨んだ。
「だったら――」
てっきりわかったと引き下がってくれると思っていたが、また続きがあるようだ。
「私のこと、セフレにしていいよ」
「は? セフレ?」
未央奈の言葉の続きは異国の言葉のようだった。
「そう。セフレだったらいいでしょ」
「いやいや。いいわけないっていうか、意味がわからないよ。セフレの意味を知ってて言っているの?」
間もなく午後の授業が始まる。生徒たちは足早に二人を追い越していく。
「もちろん。ね、いいでしょ。あれだけ私の中に出したってことは、相性がバッチリっていうことなのよ。彼女さんとはもうしたの?」
「そ、そんなこと堀さんには関係ないじゃないか」
「もしかしたら、身体の相性が悪いかもよ。私とみなみの彼氏の子みたいに。そのとき、悶々とするぐらいなら、相性のバッチリな相手がいるのといないのでは、まるで違うと思うの」
それらしく言っているが、未央奈の持論は世間で言う常識からは逸脱していた。
「そんなことを言ったって……」
「セックスは重要よ。付き合う上で大事なファクターなのは間違いないわ。性の不一致で離婚する夫婦だっているぐらいだし」
「それはそうだけど……何もそれが全てではないでしょ」
様々なことが積み重なり、バランスを失ってしまっただけ。性の不一致はその一つの要因にしか過ぎない。圭介はそう思っている。
「もちろんそうよ。ね、彼女さんには黙っているし、絶対にバレない自信がある。だから私をセフレにして」
学校でこんなことを言うなんて。この女の性欲はもはや病気だ。圭介の目は異物を見る目ではなく、憐れなものを見るような目だった。
「……無理だよ。ごめん。俺には無理。他を当たって」
「今すぐ答えをほしいわけじゃないの。じっくり考えて。もしあれだったら、もう一度してからでもいいから」
未央奈の横を通り過ぎ、教室へ行こうとする圭介の背にそんな声が聞こえた。