第十三章「タイミング」
01
「はーん。よかったじゃないか。でも牛丼屋の帰りに告白なんてするかねえ。最近の若い者の考えはわからんもんだ」
 
 そう言うと、和也は紙パックの牛乳をストローでチューッと吸った。

「いや、別に好きで牛丼屋のあとに告白をしたわけじゃないさ。たまたまだよ、たまたま」

 牛丼屋のあと――絵梨花は牛丼の汁だく大盛りとサラダを注文し、食欲が満たされると、二人は公園へと向かった。別に行く予定ではなかった。ただ、食後のまったりとした雰囲気の中、通りがかった公園に入っただけだった。
 雰囲気は悪いものではなかった。むしろ、夜の公園という特殊な環境下が二人の仲を急速に縮めた。圭介は雰囲気に任せるように、告白をした。

 水がサラリと流れるような告白だった。「ずっと前から好きでした」と、何一つ変わらないシンプルな気持ちをそのままに伝えた。
 絵梨花もまた、「こんな私でよければ」と、頬を赤らめながら肯定した。

 そう。あの夜はとてもシンプルな夜だった。お互い穢れを知らない者同士。雲ひとつない夜空にポッカリと浮かぶ月のように、二人のやり取りは自然で余計なものがなかった。
 告白をして、二人は手を繋ぎながら帰った。健全な関係――清らかな水のような関係であり続けられたらなと、圭介は幸せな気持ちを抱えたままぼんやりと思った。

「まあ、ちょっと変わった告白だろうけど、お前たちらしくていいんじゃないか。お前と生田嬢、お似合いの二人だよ」

「ありがとう。でも、いざそう言われると恥ずかしいな」

 昨夜からの幸せな気持ちは途切れていなかった。胸の奥に灯が灯ったように、ポカポカと温かい。

「なんていうんだろうな。清純というか、中坊みたいというか」

 和也の言葉は見下しているというよりも、微笑ましく見ているようだった。

「俺たちは俺たちのペースでやっていくさ。他人と比べるようなものじゃない」

「おっ、いいことを言うねえ。さすが彼女持ちは違うぜ」

 彼女持ち――いよいよそんな立場になったのだと思うと、頬の辺りがカーッと熱くなるのを感じた。

「茶化すなよ」

「おっ、噂をすれば何とかってやつだな」

 和也の言葉に、圭介は背後を振り返った。そこには絵梨花が立っていて、圭介の顔を見るなり笑顔を見せた。

「どうやら俺は邪魔なようだ」

「おい、そんなことはないって」

「バカ。生田嬢はお前に用があって来たんだろ。彼氏ならそれぐらい接してやれよ」

 異性との付き合いにおいては、和也の方が一日の長だった。圭介は頬を掻きながら、去っていく彼の背を見送った。

( 2017/06/19(月) 22:14 )