第十二章「嫉妬」
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「ところで、生田嬢とはその後どうなった? もしかして“ヤった”か?」

 校門を出ると、和也は下品な笑みを浮かべながら訊いてきた。まさかレイプまがいのことをしたとは思うまい。圭介は曖昧に笑って見せた。

「まさか。俺には高嶺の花すぎて無理だわ」

 そう考えると、女垂らしの和也よりも自分の方がどれだけ最低な男なのかわかる。のうのうとこうしていつもの生活をしていることが恥ずかしさを覚えてならない。

「はーん。高嶺の花、ねえ。いつまでもそんなことを言ってたら誰かに獲られちまうぜ」

 絵梨花が他の男に抱かれる。その想像をしたこともあった。自分の知らない男に抱かれる絵梨花。和也に抱かれる絵梨花。芸能人に抱かれる絵梨花――。
 想像の中ですら圭介にとってしてみれば、どれも嫌悪感を抱いた。自分の好きな人が他の男に抱かれることを想像するだけで怒りとも、悲しみとも取れる感情が湧いて出てくる。

「はあ。そんな辛気臭い顔をするなって。冗談だよ、ジョーダン」

 肩をポンと叩かれ、圭介はハッとした。つい想像をしてしまっていた。

「胸糞悪い冗談は止してくれないか」

 自分には絵梨花を抱く権利もなければ、きっと機会にも恵まれないだろう。そう頭の中ではわかっているはずなのに、どうしても諦めきれない自分が恨めしかった。

「悪い、悪い。でもそれだけのめり込むなんてな。一途というか、バカ正直というか」

「別に何でもいいだろ。俺は和也とは違うんだ。放っておいてくれ」

 そう言ってさっさと先を歩くと、和也が小走りで駆け寄ってきた。

「まあまあ。そう怒るなよ。生田嬢とお前の距離を縮めるいい方法を閃いたんだ」

「いい方法?」

 圭介は足を止めた。縮まりかけて、結局離れてしまった距離。思わぬ和也の言葉に圭介は傾聴した。

「ああ。生田嬢を嫉妬させるんだよ」

「嫉妬?」

 どんな言葉を聞けるかと思えば、まるで予想外の答えだった。

「そうさ。俺から見るに、生田嬢は明らかにお前に好意を抱いている」

「まさか」

 絵梨花が自分に好意を抱いているなんて信じられなかった。

「嘘じゃない。少なくとも悪くは思ってもいないし、もっと仲良くなりたいと思っているはずだ。でなきゃお前とテスト勉強もしなければ、打ち上げなんかもしないだろ?」

 そこまでは順調だった。順調だったせいで、つい先走ってしまった。圭介はあの出来事を思い出し、顔を歪ませた。

「俺が見るに、生田嬢はお前と同じで異性への経験値が乏しい。だから距離の詰め方がわかんないんだ。そういう女に限って意外と独占欲が強いから、そこを刺激してやるんだ」

「仮にそうだったとして、どうするんだ?」

 和也は、その言葉を待ってましたといわんばかりに、ニヤリと笑った。

「なあに。俺に任せておけ。お前は俺の指示通りに動けば問題ない」

( 2017/06/19(月) 22:11 )