第十章「打ち上げ」
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 初めて入る他人の異性の部屋。まして気になっている人の部屋に入ることに、圭介の胸の高鳴りは自分の耳にも届くほど大きくなっていた。さっきから飲み物を飲んでいたのにも関わらず、口の中はカラカラになった。

「汚い部屋だけど」

 そう言って絵梨花はおそるおそるといった様子で扉を開けた。開けた瞬間、ふわっとしたなんともいえない香りが鼻腔を刺激した。
 女の子のにおいだ。日奈子の部屋もそうだが、女の子というのは甘ったるいにおいをさせる。決して芳香剤や化粧品などのにおいではない。体臭――フェロモンとしか形容のしようがないにおいに圭介の下腹部がズボンの下でピクリと反応した。

「そんなことはありませんよ。綺麗な部屋です」

 中を見渡すと、白を基調としたインテリアだった。が、病院とは違う。清廉で彼女の雰囲気をそのまま表したような内装だった。

「あんまり見ないでよ」

 恥ずかしがる絵梨花が可愛くて、圭介はその身体に触れようとした。が、タイミングが悪かったのか、はたまた圭介の意図に気が付いたのか、絵梨花は指先に触れる前に身を翻してしまった。

「部屋に男の子を招き入れたのは初めて。あっ、ここに座っていいから」

 部屋の中央にあるテーブルとラグを指差しながら絵梨花は顔を赤らめた。
 初めてだったのか。そんな雰囲気はしていたが、いざ彼女の口からその言葉を聞くと、圭介の心にじんわりと優しく染み渡るようだった。

「僕も初めてです」

 絵梨花が指差したラグの上に座ると、彼女も圭介に対面する形で腰を下ろした。

「えー。嘘」

「嘘じゃないですよ。本当です」

 暗にこれまで彼女がいなかったことを言っているようなものだが、圭介は構わなかった。事実だし、何よりそちらの方が絵梨花にしてみればポイントが高そうに思えた。

「でも北野君は共学の出身じゃなかったの? ああ、でもあれか。中学生じゃまだか」

「ですね。生田さんはずっとエスカレーター式で上がってこられたんですか?」

「そうね。だから今年になって共学になるって聞いてビックリしちゃった。どんな子が入ってくるんだろうって。でも北野君みたいな子でよかったな」

「それは――」

 果たして異性として見られていないのか、はたまた認められた上でよかったと思われているのか。圭介は途中で咳払いをすると、絵梨花の目を真っ直ぐ見た。

「僕が人畜無害だからですか。それとも、男として見てくれているからですか」

 ガラスのような目が一瞬ゆらりと揺れた。

「ちょっと、どうしたのよ急に。そんな真面目な顔をして」

 困ったように絵梨花は目を伏せた。正座から足を崩し、横座りの体勢になった膝をツンツンと押し始めた。

「聞かせてください」

「べ、別にそのままというか……どうしたの」

 落ち着きがないように身体のあちこちに触れる絵梨花。圭介は身を乗り出さんばかりに顔を近づけた。

「聞きたいんです。生田さんが僕のことをどう思っているのか」

( 2017/06/18(日) 18:08 )