第十章「打ち上げ」
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 彼女の家で過ごすのだから、天候はあまり関係なかったが、それでも圭介は日曜日が晴天に恵まれることを祈った。天気予報を祈るような気持ちで見続け、迎えた当日。圭介の願いが通じたのか、空は快晴だった。
 天気にも恵まれ、久しぶりに圭介はウキウキとした気持ちで家を出た。告白や伊織の件はまだ心に巣食っていたが、いざこの日を迎えると小さく萎んだ。

 自転車を颯爽と漕ぎながら、圭介は道中コンビニへ寄った。手ぶらで彼女の家に行くのも気が引けたから、適当に飲み物と甘い物を買った。
 絵梨花とは彼女の自宅で待ち合わせをした。道に迷わないか彼女は心配していたが、圭介の頭の中には彼女の家までのルートが鮮やかに描かれているので、何一つ間違えることなく彼女の家までたどり着いた。
 前にも見た瀟洒な家。いざインターフォンを押そうとすると、緊張感が圭介を襲った。震える手でインターフォンを押すと、やや間があって応答があった。

『はい』

 インターフォン越しからでもわかる。彼女の声だ。圭介の胸はドクンと跳ねた。

「あっ、北野です」

『はい。今開けるね』

 そう彼女が言うと、インターフォンがガチャリと切れた。まるで恋人の家に来たようだ。
 いや、結果次第でそんな関係になることだって可能じゃないか。穏やかな空模様に反して、圭介の心はさざ波だっていた。

「どうぞー」

 玄関の扉が開くと、絵梨花の顔が見えた。サッと上から下まで品定めをするように見ると、彼女は私服姿だった。学校がないのだから当たり前なはずなのに、圭介には新鮮に見えた。

「生田さんの私服姿初めて見ましたよ。似合ってますね」

 白いワンピース姿の彼女は、とても清楚で気品がある。彼女に似合っているというよりは、彼女に着てもらいたくて生まれてきた物にすら見えた。

「ありがとう。さっ、狭い家かもしれないけど上がって」

「お邪魔します」

 絵梨花に促され、圭介は玄関に足を踏み入れた。北野家よりも広い玄関は何種類かの靴があるだけで、スッキリと片付けられていた。

「あの、これ買って来ましたので、よかったらどうぞ」

 リビングへ通されると、圭介はコンビニ袋を差し出した。

「そんな。気を使わなくていいのに」

「いえ。せっかく招いていただいたのですから。もらってください」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 圭介からコンビニ袋を受け取った絵梨花は、「あっ」と声を上げた。

「どうかしました?」

「これ。美味しいよね。私、好きなんだ」

 絵梨花がそう言って取り出したのは、適当に選んだ甘味物だった。確か、日奈子が美味しいと言っていたのを思い出し、カゴに入れたがまさか彼女の好物だったとは。思わぬ産物に圭介はほくそ笑んだ。

( 2017/06/18(日) 18:07 )