第九章「依存症」
07
 同級生に見られながらする自慰。それはいつも一人のときにするものよりも遥かに快楽が強かった。

「ちょっと唾を垂らしてくれない」

「え?」

 視線のやり場に困る伊織は、俯いたままだったが、圭介の言葉に思わず顔を上げた。すると目の前にはいきり立つペニスが見え、堪らずまた顔を伏せた。

「ローション代わりにしたいから。唾ぐらいいいだろ」

 そう言って圭介は自慰を中断すると、伊織の頬に手を添えた。彼女の頬は熱を帯びたように熱かった。

「さあ、ほら。早く終わらせたかったら言うことを聞いて」

 ツルツルとした赤ん坊のような頬を撫でていると、伊織はようやく意を決したように圭介の目を見つめた。
 大人っぽい彼女の顔立ちを汚してみたい。ふと圭介はそう思った。綺麗な髪も顔も全部汚してしまう。綺麗なものを汚すという背徳感を得てみたいと思った圭介は、再び彼女の鼻先までペニスを突き出した。

「ここに唾を垂らして」

 戸惑いの表情を浮かべる伊織だったが、決意は消えることはなかった。口元をモニョモニョとさせると、唾液をペッとペニスに吐き出した。

「もっと。タラーっとやって」

 まだやるのかと伊織の目が訴えたが、すぐに彼女はまた口元をモニョモニョとさせた。今度はヌベーっと口から唾液を滴り落とした。それはさながらアダルトビデオで女優がよくする“それ”だった。

「いいね。よく見てて」

 伊織から吐き出された唾を潤滑油にすると、再び圭介は自慰を始めた。唾のおかげで滑らかとなり、グチョグチョとした音がするようになった。

「ほら。もっとよく見て」

 七瀬の気持ちがわかるような気がする。異性に見られながらする自慰は普段とは別格の快楽だった。自然と息が荒くなり、手の速度も増す。
 伊織は唇を噛み締めながら同級生の自慰を見るしかなかった。

「気持ちいい。相楽さん、気持ちいいよ」

 彼女の名を呼びながら自慰にふける。目の前にいる同級生は唇をキュッと噛み締めながら羞恥に耐えている。その姿に圭介は我を忘れたように手を必死に動かした。
 やがて――。

「も、もうイキそう」

 込み上げてくる射精感。圭介は低く呻くと、欲望の塊を伊織の顔面にぶちまけた。

「やっ……」

 スペルマをシャワーのように顔に受けた伊織は反射的に顔を下げた。ペニスから出てくる白濁の液体は、圭介の欲望通り彼女の黒髪をも汚す。

「はあ。相楽、いや伊織さん……伊織さん……」

 うわ言のように呟きながら、圭介は射精したばかりのペニスを彼女の頭に擦り付けた。先端に残ったわずかな液体をも無駄にしたくなかった。

( 2017/06/18(日) 18:04 )