第九章「依存症」
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 ズボンの中で勃起し始めたペニスに圭介は戸惑いを覚えた。同級生を脅し、挙句ペニスまで勃起させているなんて絵梨花が知ってしまったらもう以前の関係に戻れないのは明白だった。

「あの、相楽さん」

 圭介が伊織の肩に触れようとした瞬間、彼女は小さな悲鳴を上げた。

「いやっ、触らないで!」

 拒絶されたことに圭介は傷ついた。最低なことをしているのは自分のはずなのに、女性から嫌われることに慣れていない圭介は、伊織の拒絶反応を見て慌てふためいた。

「相楽さん、話を聞いて」

「いやっ! 何も聞きたくない!」

 髪を振り回しながら拒絶する伊織。彼女の長い黒髪が圭介の顔に当たる。
 フワリと漂う彼女の髪のにおい。髪用のコロンを付けているのか、はたまたシャンプーや整髪料のにおいか。圭介の頭は“クラっと”きた。

「相楽さん!」

 気が付けば圭介は伊織を押し倒していた。彼女の赤く充血した目と目が合う。

「いやぁ……」

 孔雀の羽のように髪の毛を広げた彼女の口から漏れる声は消え入りそうで、それでいて興奮を掻き立たせるようだった。圭介は唇をギュッと噛むと、腹部に乗せていた身体を浮かせおもむろにズボンのジッパーを下げた。

「……舐めたら誰にも言わないでいてあげるよ」

 自分でも驚くほど冷淡な口調だった。伊織は赤い目を見開かせた。

「え? 本気で言っているの……」

「本気さ。誰にも言ってほしくないんでしょ? 勉強を教えてほしいんでしょ? じゃあ、舐めてよ」

 ズボンを下ろすと、トランクスの中央が盛り上がりを見せていて、思わず伊織は目を背けた。

「舐めるって……」

「ペニスに決まってるじゃん」

 伊織を見下ろしたまま圭介はサラリと言った。興奮で早くも頭がボーっとし始めている。

「せ、先生に言うわよ……」

「いいよ。言っても。代わりに俺もみんなに言いふらすから」

 興奮状態で何も考えられなかった。今はただペニスの疼きを早く鎮めてほしかった。

「……舐めたら本当に誰にも言わない?」

 長い間のあと、ようやく伊織と目が合うと彼女の目は何かを決意したような目に変わっていた。

「もちろん。ただ、ペロッと一舐めして『はいおしまい』じゃダメだからね」

「じゃあ、どこまで舐めればいいの?」

「当然射精するまで」

「無理よ。私、したことがないもん。自信がないわ」

 頬まで赤く上気させた伊織はそう言って顔を振った。

「とにかく舐めてみて。それからのことはその後に考えよう」

 怯えたような、それでいて興味がありそうな目で伊織は黙って頷いた。

( 2017/06/18(日) 18:04 )