第九章「依存症」
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 疼く――上目遣いで不安げな表情を浮かべる伊織に、圭介の心はざわめきたつ。どちらかといえば異性に対して臆病な面を持ち合わせる圭介だが、女生徒たちに囲まれ、不本意ではあったものの性を体験してしまっている彼にとって今の伊織は肉食動物の前に出された小形動物であるようだ。
 ふと邪な考えが頭をよぎる。最低な考えだと思う。けれど、とても魅力的な妙案に、圭介の口は勝手に開いた。

「なんj」

 ボソッと独り言のように言った圭介のことばに、伊織はハッとしたように顔を上げた。

「え?」

「なんj。『何でも実況ジュピター』。好きなんでしょ」

 先ほどまで不安げだった目が大きく見開かれる。伊織はカッと目を見開き、口元を手で押さえながら言葉を失った。

「好きなんでしょ。それが原因でこうして困っている、と」

 自分の椅子に腰掛けると、圭介は不敵に笑って見せた。

「どうして……」

 このまま膝から崩れてしまうのではないかと思うほど膝を震わせた伊織は、声も同様に震えていた。

「たまたまネットサーフィンをしていたら見つけたんだ。で、なんだか相楽さんっぽいな、って。相楽さんでしょ? 『部活おもんねーわ。なんj最高や! 部活なんていらんかったんや!』って書き込んだのは」

 ワナワナと全身を震わせる伊織。見ているだけで、圭介のサディスティックな面が大きく膨れ上がる。
 そう。伊織は開いてしまったのだ。圭介のサディストな部分を。いつも相手から一方的に責められることの多かった圭介にとって、伊織の弱みを握れたことは大きかった。

「いやあ、まさか相楽さんがなんj民だったとはね。人は見かけによらないって本当だったんだ」

「いや……言わないで……」

 シクシクと泣き始める伊織に、圭介はやり過ぎたかと思う反面、もっと追い詰めてみたいと思う自分がいた。

「部活に来ないのもなんjのせいなんでしょ。おかげで俺の仕事が多くて困るよ。俺がヒーヒー言っている間、君は優雅にネットに勤しんでいるなんてね」

「違うの……罪悪感は感じているけど、止められないのよ……お願い、信じて」

 頭を抱え込みながらイヤイヤをする伊織を見ながら、ペニスに再び血液が集まり始めていた。

「信じてって言われてもねえ。依存症ってやつでしょ。もう学校も辞めるしかないんじゃないの」

「いやっ。学校まで辞めたら、もう私日常生活に戻れなくなっちゃう。……北野君、どうしてそんなに酷いことを平気で言うの? そんな人だなんて思わなかったのに……」

 さすがにそこまで言われて、圭介はやり過ぎたと反省した。が、ペニスだけはむしろ硬度を上げてきていた。

( 2017/06/18(日) 18:03 )