第九章「依存症」
01
 自室に戻るなり、圭介は顔のニヤつきが抑えられないでいた。ついに生田絵梨花の自宅を見つけたのだ。
 生田家は閑静な住宅街にあった。どんな豪邸かと思ったが、意外にも瀟洒な建物であった。中を見ていないので断定はできないが、外見から察するに中流家庭の自宅よりもちょっと大きいかというほどにしか見えなかった。

「どうしたの?」

「いや、もっとすごい豪邸をイメージしていたもので。こうアラブの大富豪が住むような」

 圭介の言葉に絵梨花は声を上げて笑った。

「そんなわけないじゃない。私の家はそこまでお金持ちじゃないって」

 パンパンと絵梨花に肩を叩かれる。今日だけでずいぶんと距離が縮まったところだ。が、さすがに家でお茶を飲んでいくような流れではなった。
 圭介は気になっていた。彼女の自室はどんなものだろう。彼女が生まれ育った家。気にならないわけがなかった。

「テストの打ち上げ、ここでしません?」

「私の家?」

 絵梨花は肩を叩くのを止め、目を丸くさせた。

「ええ。ダメですか? ダメなら自分の家でもいいですけど、ゴミ屋敷みたいに汚いですよ、うちの家は」

 表情を変える絵梨花。圭介は強引過ぎたかと思った。

「まあ、いいけど。どうせ家にはほとんど誰もいないし」

「え? いいんですか」

 閑静な住宅地である。夜の住宅地に圭介の声はよく響いた。

「ちょっと大きいって」

「すみません。でも、本当にいいんですか」

 絵梨花は大きく頷いた。

「本当に本当ですよね? 嘘じゃないですよね?」

「もう。しつこいよ。本当だって。嫌なら止めてもいいよ」

 雨に濡れた犬が身体に付着した水滴を払うように、圭介は勢いよくかぶりを振った。

「滅相もありません。じゃあ、テストが終わったら生田さんの家で。約束ですよ」

「大丈夫だって。はい。かしこまりました」

 苦笑いを浮かべる絵梨花に、圭介はただただ鼻息を荒くするばかりだった。

「いよいよ運が回ってきている。チャンスを逃したらダメだぞ」

 冷め遣らぬ興奮のせいで、風呂から上がってもどことなく落ち着かなかった。それは脳だけでなく、身体全体を巡り、ペニスにまで届いた。圭介の手は自然とズボンの中に伸びた。
 ズボンの下ではすでにペニスが勃起していた。授業後、つい先ほどまで想い人と一緒にいたのだ。妄想の“オカズ”は頭の中で満たされている。

 目を瞑りながら自慰にふけっていると、生田絵梨花だけでなく、星野みなみの痴態。橋本奈々未から受けた愛撫。深川麻衣の胸の感触がフラッシュバックし、圭介は小さく声を漏らすと、スペルマをティッシュの中へと放った。

( 2017/06/18(日) 18:02 )