09
叩きつけるような雨の音を聞いたのは、夕食を食べ終えて自室でゴロゴロしている時のことだ。窓を開けてみると、大粒の雨がアスファルトを濡らしていた。
と、一瞬空の色が明るくなった。稲光だ。圭介がそう思った矢先、雷の音が鳴り響いた。日奈子の言った通りだった。しばらく圭介は外を見ていたが、雷鳴が轟く景色は圧巻だった。真昼のように空が明るくなったかと思えば、大地を引き裂くような音が響き渡る。それはまるで空が怒っているかのようだ。
ノックの音が聞こえたのは、それからのことだ。最初は雷の音かと思っていたが、部屋がノックされていたことに気が付くと、圭介は窓辺から返事をした。
ガチャリと開いた扉から顔を出したのは日奈子だった。夕食を食べ終えるや否やさっさと自室に戻ってしまった彼女が圭介の部屋を尋ねてくるのはここ最近ではなかった。
「どうした? 何か貸してもらいたい物でもあるのか」
日奈子が扉を開けているせいで、空気の流れ、部屋の中に雨粒が入ってきた。圭介は窓を閉めると、日奈子はオズオズと中へと入ってきた。
「そういうわけじゃないけど、今何をしているのかなって」
椅子に座ろうか、ベッドに座ろうか悩んだ様子を見せた日奈子は、結局ベッドに腰掛けた。
「別にゴロゴロしていただけだけど」
「ふうん。そっか」
圭介はようやく日奈子の意図が読めた。
「お前もしかして雷が怖いんだろ」
意地が悪そうに言うと、日奈子の目が揺れ動くのが見えた。
「ち、違うよ。そんなはずないじゃん。日奈子はもう中三だよ? 雷が怖いなんてことあるわけないじゃん」
手を顔の前でブンブン振りながら否定する姿は、どう見ても図星を突かれた姿にしか見えなかった。思春期真っ只中で、圭介のことを邪険に扱うようになってきた日奈子のそんな姿を見ていると、圭介は日頃の仕返しをしてやりたくなった。
「そっか。そうだよな。中三で雷が怖いなんていう奴見たことないもんな」
ニタニタとしながら言うと、圭介の背中越しから大きな雷鳴が鳴り響いた。日奈子は悲鳴こそ上げなかったが、頭を抱えた。
「どうした? まさか怖いとか」
「そ、そんなはずないじゃん。ただちょっと驚いただけ。あと、今日は特別に日奈子がもうちょっとここにいてあげる」
「それはまた。どうして」
バツが悪そうに日奈子は頬を掻いた。
「とにかく、今日はそんな気分なの。ほら、さっさと近況でも話しなさいよ」