04
沈黙に耐え切れなくなった圭介は取材に行って来ると言って部室を出た。手にはメモ帳とデジカメを持っている。本物の記者らしく腕章こそないが、傍目から見て新聞部なのだろうと分かれば十分である。
そう。男子生徒が極端に少ないためか、女生徒たちの視線を常に受けている。それは好意的な目ではなく、むしろ好奇に満ちた目もあれば、明らかに敵意を抱いた目も少なからず存在した。
新聞部の取材に来たと言っても、明らかに嫌そうな顔を見せる女生徒もいる。そんな時は伊織や七瀬がいればいいのだが、ほとんどが圭介一人になっている。門前払いを受けると、圭介は結局部長である七瀬に頼み、取材を代わってもらうことがしばしばあった。
そのため、必然的に圭介が取材に行ける部活は限られている。圭介の足は自然と家庭科調理室へと向けられていた。
「お邪魔します。新聞部です」
扉の先からはガチャガチャと食器の音がしていた。中を開けると、香ばしいクッキーのにおいがした。
「あ、北野君。いらっしゃい。クッキーのにおいに釣られたのかしら。それとも、『まなったん』に釣られたのかしら」
自分のことを『まなったん』と呼んで圭介を出迎えたのは、料理部部長の秋元真夏だった。三年生だというが、先輩風を拭くことなく、部員たちからは玩具のように遊ばれているというのがもっぱらの圭介の印象だった。
「取材ですよ、取材」
「あっ、先輩をそんな風にあしらうんだ。クッキーあげないわよ」
「別にクッキーが欲しくて取材に来たわけじゃありませんから」
好意的な真夏のおかげもあり、料理部は取材に行きやすい部だった。お土産として、いつもクッキーをくれるが、条件が付いていた。
「北野君も料理部に入っちゃえばいいのに。あんな女のいる部なんて暗くてしょうがないでしょ。料理部はいいわよ、明るくて。北野君が入ったらもうみんなとっても喜んじゃうと思うな、まなったんは」
料理部から突きつけられた条件は、部長である七瀬が来ないことと、クッキーなどの土産を渡さないことだった。全て部長である真夏から突きつけられた条件である。
そう。秋元真夏と西野七瀬は犬猿の仲だった。どちらも表面上は互いのことを意識していないように見せているが、裏では共に毛嫌いをしていた。
圭介は以前、真夏になぜ七瀬と不仲なのかと訊いたことがあるが、「世の中には知らないことがあった方がいいのよ」と、はぐらかされてしまった。
他の部員にそれとなく訊こうとしたが、それまで好意的に答えてくれていた生徒たちがこぞって、その話題に入る気配を察すると、早々に取材を打ち切ってしまうのだ。
結局、圭介は諦めた。真夏が言うように、世の中には知らない方がいいことだってあるのだ。そう自分に言い聞かせた。
「じゃあ、取材を始めてもいいですか?」
「その前にクッキーが焼けたから、今からお茶会よ」
真夏がそう言って笑うと、目の線が一本になった。