第一章「満員のバス」
01
 バス停の前には多くの生徒たちが並んでいた。
 北野圭介はその光景を見ると、並ぶのを止めようかと思った。しかし、天気予報では午後から大荒れの天気になると言っていたし、また自転車を取りに自宅まで戻るのは億劫だった。
 仕方がないので、圭介は列の中に加わった。と、バスがやって来た。

 列を成していた生徒たちが続々とバスの中に飲み込まれていく。圭介が料金を支払い、いざ奥へと進もうとすると、すでに車内はギュウギュウ詰めとなっていた。
 なおも車内の中へ入り込んでくる生徒たちに押され、圭介は揉みくちゃにされると、ようやく扉が閉まり、バスが発車した。

 車内は男が自分一人ではないかと思うほどに、女生徒たちで埋め尽くされている。おかげで、車内は甘酸っぱいにおいで包まれている。
 女生徒たちは、圭介がこの春から通い始めた高校の生徒たちだった。少子高齢化の影響を受け、女子高だった『乃木坂女学園』が共学高校として『乃木坂学園』に変わったのは、昨年のことである。実質上、男子生徒を受け入れたのは、圭介の学年が初めてのことだ。

 圭介は自宅から自転車で通える距離と、多少なりとも邪な気持ちを持ってこの学校を選んだ。中学時代、同級生の中では早くも交際にまで発展した同級の中にあって、圭介はその中から外れていた。
 無論、気になる異性はいた。が、告白をするだけの勇気も持てず、結局何の発展も見せないまま圭介の三年間の義務教育は終わりを告げた。

 女子高から共学になったばかりの高校である。淡い期待を抱いて入学すると、男子生徒は圭介を合わせてわずか六名という少なさだった。
 無論、先輩はいない。全校生徒合わせて六人だけしか男子生徒がいないのだ。さすがの圭介も、自分の選択肢を後悔した。もっと自分と同じように邪な男子学生が入ると思っていたはずなのに、その目論見は入学式早々、潰えた。

 バスは目的地に向かってひた走る。バスが揺れるたび、甘ったるいような甘酸っぱいような香りがふわりと漂う。圭介は痴漢と間違われないか、不安でドキドキしていた。
 目の前には黒髪の女生徒が立っている。彼女からは石鹸のような香りが先ほどからしており、黒髪が時折首元や頬をかすめていく。
 
 圭介は胸の鼓動が早まっていくのを感じた。というのも、女生徒の丸い尻が圭介の手に触れているのだ。これでは痴漢に間違われてしまう。そう危惧しながらも、ギュウギュウの車内のせいで圭介の手が抜けなかったし、抜こうとジタバタしていると、逆に不審がられてしまうから何も出来ずにいた。
 手に触れる尻。丸くて弾力のある尻だった。圭介は何も考えずにいようと努めたが、下腹部は勃起しかけていた。

「あぐっ」

 バスがカーブに差し掛かり、車体は大きく揺れ動いた。吊革に掴まれなかった生徒たちが大きく揺れ動いたせいで、尻に触れていた彼女の足が圭介の足を思い切り踏んでしまった。
 もしかしたら、彼女は尻に触れていることに抗議するためにわざと踏んでしまったのかもしれない。そう思った圭介は、揺れ動いた拍子に何とか解放された手を頭上に掲げ、空いていた吊革を掴んだ。

( 2016/07/18(月) 15:15 )