5 愛しい人
04
保乃は、そんな俺の視線に気づいたのか、目を泳がせながら時々こっちを見上げる。丸い瞳の奥はゆらゆらと揺れていた


「・・・・・ごめん。困らせてるな」

いつも饒舌な保乃をここまで、黙らせてしまって。ああ俺は後戻りできないこと言ったんだなぁと、なぜか冷静な自分もいる。この前あ夏祭りの日遠藤もこんな覚悟だったんだろうか

「・・・すぐに無理って言わないでよ。俺をそういう風に見てないこと知っての上だからさ、だからこれから少しでも意識してくれたら」

「そっそんなの、もうとっくに意識してるってば・・・してるから困ってるんじゃん」

俺の手のひらの中で、保乃の小さな手がぎゅっと力をこめて握られた気がした

「嫌じゃないから・・・困ってるんだよ」

名前を呼ぼうと口を開くけど、のどの奥の方がじんとしびれたような感覚でうまく声が出ない。

ねぇ保乃


今なんて

俯いた保乃の表情は、横の髪の毛が邪魔をしてうまく見えない


「・・・・保乃」

ようやく絞り出した小さな声。それはまるで俺たち2人にしか聞こえない声でそれに応えるように顔を上げた保乃は俺を睨み付けた。鋭い視線とは裏腹に、瞬きしたら溢れ落ちそうなほどの涙を溜め込んだ瞳で、耳まで真っ赤にして唇を噛みしめている

「いや・・・・だった、だから写真撮るとき、私だけ知らなかったのが嫌だったの!友達の手を握ったのも嫌だったの!それに蒼が他の女の子にもカメラ向けてると思ったら・・・・・誰にでも向けるわけじゃないって私だからって・・・言ったのにって」

最初こそ、捲し立てる勢いだった保乃の声は、みるみるうちに小さくなっていく。しまいには保乃は自分の口を両手で覆ってしまった





「それって・・・」

「まっ待って!今頭の中ごちゃごちゃしてる・・・ごめん帰る」

保乃は俺の言葉を待たずに、逃げるように部屋を飛び出して行った



バタンッ
リビングのドアが閉まる音で俺は我に返る。


「保乃!待って」

慌てて追いかけた玄関はもうすでに空っぽで「逃げ足はえー」さすが運動真剣抜群だなんて・・・そんなこと今はどうでもよくて


「ぬあーーー」

妙な捻り声をあげて、へなへなとその場にしゃがみ込む。

なんだよ、さっきの

保乃の言葉を何度も何度も脳内で反復する。ダメだ、どうしても都合の良いように解釈してしまう。

「あーなんだよ・・・・可愛いすぎんだろ」

薄暗い玄関で一人、俺は頭を抱えながら小さく呟いた。









■筆者メッセージ
最近は拍手の数も増えて嬉しいです。もうあと2話程度で完結となるつもりなので最後まで見ていただけたらと思います。
about5 ( 2020/02/18(火) 22:06 )