05
「うわー蒼先輩、見てください!綿アメにたこやき!リンゴ飴、お団子もあります−」
駅から数十分歩いた川沿いにはもう、たくさんの人がいて、前を歩く遠藤は目の前に広がる出店を見て目をきらきらさせている「やっぱ子供」という声は人混みに消えて行く。この目の前に立つ遠藤が保乃だったらなんて俺は言ったのだろうか。でもめんどくさい俺はたぶん興味ないふりして、内心保乃に心臓ばくばくなんだろうな
「先輩?行きましょ!」
そんなことを考えていたからか急に前を向くと遠藤に手首をもたれ、散歩に連れて行かれる犬みたいに連れられていく「いや、ちょっと」とさっきまで子供だと遠藤に急に手を持たれて焦る俺に「こんな中だとはぐれちゃうので・・・・・それに蒼先輩子供だから・・迷子になっちゃいますよ」と消えそうな声で俺の顔を見ずに前を見ながら言った遠藤に言われるがまま歩いて行く。
「先輩みたらし団子食べましょ」
「あったこやきも」
さっきまで横を歩いていたのに、出店通りの中を歩くと、自然に遠藤が俺の手を引っ張って進んでいく。時折振り返って嬉しそうに俺の顔を見る遠藤に思わず俺も笑顔がこぼれる
「そんなに買って大丈夫かよ」
「はい!それより座るところないですねー」手にさまざまな食べ物を持った遠藤はずっとにこにこしながら歩いていて、「やっぱり川沿いは人が多いですね」ってもうすぐ始まる花火に群がる土手に座る人を見る。もう出店の通りほど人が多いわけじゃないのに手は繋がれたまま遠藤に聞いても「えっと私今日スマホ忘れてて迷子になると連絡取れなくなっちゃいますから」と言われ、ずっと繋がれたまま
「どこか花火見やすい場所ないですかねー」
「あっ神社の方」
「え?神社ですか?」
「うん、確か・・・あったここ」
「うわー神社の方は人いたのに、裏側にこんな場所があったんですね!なんでこんな場所知ってるんですか?」
「前に来たことがあるから」
小学生の頃、まだ保乃と来ていた頃、確かあの日もこうやって2人手を繋いで花火の見える場所を探した。でも慣れない下駄を履いた保乃のために神社に立ち寄った。そこ神社の裏に小さな道があってそこを進むと山を登っていく階段があった。
「うわーここだと絶対花火見えますね!ありがとうございます蒼先輩!」
遠藤が言ったとおり、この場所はあの時と変わらず、階段の傾斜がいい感じに花火を見るのに都合が良い。でも花火を楽しみにしていた遠藤は今はもう横に置いたみたらし団子をおいしそうに食べていて、そんな姿をぼーっと眺めていると、急に口に何かを突っ込まれて
「ごほっごほっ、ちょっと急に・・なんだよっ」
「え?ずっと見てたので、欲しいのかと思っちゃいました。違いました?」
「うん、本当によく食べるなーって思って・・・・それにこれおまえの食べさしだろ?」
「え?はいまだもう一本あるので」
「いや・・・そういうことじゃ・・なくて」横でまた笑顔になる遠藤を見てため息が出そうになる。こんな人気のない場所で無自覚にする遠藤に対して、普通の男子高生なら・・・なんて考えてしまう
「あのな・・遠藤こんなこと他の男子に」
「先輩にしかやらないですよ・・・・蒼先輩にしか・・」
「は?なに?」
さっきまで横でにこにこしていた遠藤の顔は、なんだか改まった真剣な顔で、でもちょっと緊張しているときの顔で
「私・・蒼先輩が好きです・・・」
ドンッ、ドンッ――
急に少し遠くの方でなるその音が、痛むように奥に響いていった。夜空に放たれた花火の灯りに照らされた遠藤の顔は少し大人びていて、その大きな瞳に映った俺はその瞳から逸らすことができなかった。