04
「遠藤?」
ピンクの浴衣を着た遠藤は夏の暑さか頬を浴衣と同じ色に染めて俺の方を見る。よくよく遠藤の方を見ると、その後ろに遠藤の友達らしき同じような浴衣を着た女子が1人立っていて「遠藤も友達と祭り?」
「はい、先輩もですか?」
「いや・・・俺は家に帰るけど」
すると、遠藤の後ろに立っていた女子が遠藤の手を取って後ろ向きで何か話し始める「え?ちょっとかっきー?」そのかっきーと呼ばれた女子は俺の方を向いて「先輩ちょっと待っててください」と言われて数秒待つと、今度はかっきーと呼ばれた女子が俺の前に来て
「えっとー蒼先輩ですよね?あのー私用事を思い出したので今から帰ります。だからさくとお祭り行ってあげてください!!さくちゃんこんなかわいい浴衣着てお祭り楽しみにしてたので」
「え?えっ!ちょっとかっきー!」
「では!」
突然のことで、かっきーと呼ばれた女子はそのまま俺と遠藤から離れていく。遠藤は普段のおっとりした彼女とは異なり焦って声がだんだん小さくなっていく。
「蒼先輩、すみません」
「いや・・・別に・・・すごい友達だな」
「え?いや普段は全く違うんです。すごく優しくて勉強もできて・・・・えっとー何言ってるんだろ私・・・私帰ります!」
「行かないの?祭り」
テンパってもじもじし出した遠藤を見て、俺は諦めたように遠藤を誘った。こんなちゃんと浴衣を着た遠藤を帰らせるほど俺もひどい男になりたくない
「でも・・・先輩家帰るんですよね?」
「いいよ・・・別に帰っても何もやる事なんてないし、それにせっかくそれ着てるし、楽しみだったんだろ?」
「はい・・・でも」いつもは部室で先輩達と同じようにいじってくるのに今日はいつもと少し違う気がする
「いいよ気にすんな」
「はい!ありがとうございます蒼先輩」といった下を向いていた遠藤の顔が少しだけ高い身長の俺の顔を見た。日差しに照らされたそのうすピンクの頬とその大きな目。初めて遠藤が笑うと今まで保乃のことしか分からなかった俺でも、部活の先輩達や同級生が遠藤を見て「かわいい」という理由がはっきりと分かった気がする。だから俺は顔を背けて「行こっか」と呟いて横を歩く遠藤を横目に駅に向かう。
駅に着くと同時に、電車が出て行ったようで、切符を買ってホームに立つと、誰も居なくて少しほっとする。別に誰に見られてもいいけど、少しめんどくさくて、でも保乃にだけは見られたくない。
「蒼先輩、もしかしてさっきまで寝てたんですか?」とホームであと数分したら来るであろう電車を待っていると、横に立つ遠藤が俺の頭を指さして笑う。もうさっきまでのおどおどした遠藤ではなくて、部室での遠藤で、佐藤先輩や久保先輩みたいに俺の顔の絵を面白がって描いて見せてきたり、髪の毛をぐしゃぐしゃとしておもちゃにしてくる遠藤だ。
俺は言われた通り頭を触ると、夏休みに入って全く気にしてなかった寝癖が思いっきりついていて「まじか」と口から漏れる。
「ふふっ蒼先輩、なんか子供みたいで可愛いですよ!」
「なんだよ、おまえ本当にすぐ人のこと馬鹿にして、遠藤の方が子供っぽいから」
「そんなことないもん」そう言って頬を膨らませて俺をじっとにらむその顔が高校生とは思えない幼い顔で俺は笑うと「もう、なんですか!」と言って遠藤も笑う。そんなたわいもない話をしていると駅に電車が来て俺たちは乗り込んだ。