4 夏の夜空に
03
「ごめん・・・蒼・・・ありがと、もうそこだから行くね」

保乃はそそくさと体勢を直すと、駅の方へと歩き出す。俺は保乃の背中を大声で呼び止めた。

「待てって、そんななれない危なっかしい格好で、1人で行かせら・・」

俺が言い切る前に保乃は勢いよく振り返った

「急に女の子扱いするのやめてよ・・もうどうしたらいいか分からなくなる・・・」

「はぁ?女の子扱いって、保乃は女の子だろ?」

「そういうことじゃなくって!」

ほんの数秒、気まずい沈黙が流れる。

ああどうしてこうなっちゃうのかな

「・・・・この間の、教室」

少しの間をおいて、そう言うと保乃ははっと顔を上げてこちらを見た。





なんだよ?


その顔・・・


頬と耳を真っ赤にさせて、少し困ったような表情で、俺と目が合うと、慌てて視線を逸らす。


「忘れた、何のことだっけ?」

「・・・だから」

「いい!言わなくて・・・いいから」

真っ赤な顔をブンブンと横に振る保乃。全力で拒否されているのに、その表情が俺を勘違いさせそうになる。


ふと保乃の視線が俺を通り越して後ろに向いた。

「あっ保乃!めちゃくちゃかわいい!」

「本当だ!似合ってる」

バレーボール部らしき2人が、同じくカラフルな浴衣姿で保乃に手を振っていた。「あ・・・・」保乃も慌ててそちらに手を振った。

「保乃早いね」

「え?うん」

2人の視線が、必然的に隣に居た俺にも向く。

「えっとー確か、井上君だよね?」

「本当だ、保乃の幼なじみの、私話すの初めてかも」

ぺこりとお辞儀をされて、俺も「どうも」と小さく会釈した。2人とも顔は見たことあるけど、クラスが違うからもちろん話したこともない。

「じゃ・・・俺はここで」

さすがに保乃の友達が居る前で、さっきの話の続きなんてできないから、俺は保乃に持っていた巾着を手渡した。

「あ、ねぇ井上君!井上君って確か写真部だよね?」

1歩歩き出そうとした所で、友達の1人に呼び止められる。

「え?そうだけど」

「やっぱり、今度の登校日に部活の写真撮るんでしょ?この前キャプテンと先生が話してるの聞いたんだ」

「ああ、ホームページのやつだよね、あれって井上君だったんだ、すっごいカメラマンって事だ、私かわいく撮ってよ」

「ねぇなんで井上君なの?」

たたみかけるように質問されて、圧倒されながらも「まぁ・・うん」と応える



「・・・・撮影って?」


保乃が横で小さく呟いた。


「あれ?保乃知らなかったの?2人仲いいから知ってると思ってた」


あ、まずい、そういえば保乃に話すタイミングがなくて、俺が口を開く前に次々に説明してしまう友達と、黙ってそれを聞いている保乃

「ふぅん・・・そうなんだ」

保乃は事も無げに一言だけ言うと、俺を見た。


「誰にでも・・・・じゃん・・・」

独り言のように呟いた声はあまりにも小さくて、聞き取れなかった。

「え?なんて」

「別に、何でもないです。2人とも行こう!じゃあね蒼」

保乃はこちらに見向きもせずに、友達を先導するように歩いて行った。


「なんだよ・・全然分かんねぇ」

俺は空を見上げた。あの日、あの放課後で見た保乃が今はうまく思い出せなくて、俺が笑顔にしたいのに結局困らせてる。それでも、さっきの保乃の表情に戸惑いを隠せないでいた。




「蒼先輩?」



急に聞こえた声に、我に返る。すると、その方向に浴衣姿の遠藤がいた。





about5 ( 2020/02/10(月) 20:25 )