01
終業式も終わって、生徒はそれぞれ夏休みという魅力的なワードに期待をよせていると言うのに、俺は一人職員室に居る
「仕事を与えよう蒼」
帰ろうとした矢先に田中先生に捕まって、強引に連れてこられてしまった。田中先生は目の前に資料を並べながら
「蒼にな学校のホームページに載せる写真を頼みたいんだよ」そこには、何年か前の写真と、他校のホームページの様々な写真。
「うちの学校、何年かぶりにホームページを新しくするらしくてな、それで部活紹介のページの写真を写真部の誰かに頼めないかってなってな」
「そういうのって、プロに頼むんじゃないんですか?」
「メインの校舎とか行事は、頼むらしんだが、部活とかは生徒が撮る方が自由があって宣伝になるだろうって・・・・いうのは建前で予算の都合で頼まれて、頼む蒼!」
田中先生のごつい手のひらに両手を握られて思わず、俺は顔を引きつらせた。話を聞いていくと、どうやら広報担当を頼まれて断り切れなかったらしい。
「佐藤先輩は?あの人部室にめちゃめちゃ来ますし、受験生なのに暇なんじゃないんですか?」
「あー佐藤はな、オーストラリアにホームステイするらしんだ、それに登校日に撮影したいから」
佐藤先輩は、ああ見えて意外と頭がいい。
「なら先生が撮ったらいいじゃないですか?大学の時写真サークルだって」
「あー俺なセンスがないんだ、カメラの機材がかっこよくて集めたけど、肝心のセンスがないようでな、今蒼が引き受けてくれたらおまえのカメラに合うレンズをやるよ」
鞄からちょっとだけ姿を見せるそのレンズ、無意識にのどが鳴って思わず手を伸ばしてしまう。
「交渉成立と言うことで!」
「はい・・・出来映えは保証しませんが」
「おまえが本当にカメラが好きで良かったよ、前にな佐藤が言ってたんだよ、コンビニで蒼にあった時、おまえがコンビニに来ただけなのにずっと鞄にカメラを入れてるから本当に好きなんですよって」
「まぁ、何か撮りたい物があるかもしれないんで、一応持ってますけど」
カメラを持つようになってから、癖みたいになってしまった。カメラを鞄に入れて持ち運ぶことを。別に撮らないことの方が多いけど、憧れた父さんがカメラのシャッターを切る姿がかっこよくて持ち歩いている
田中先生から受け取った、撮影する部活リストを眺めながらまだ日の高い真夏の帰り道をだらだらと歩く
一番最後の行にかかれた女子バレーボール部
何気なくその上を指でなぞって無意識にため息がこぼれた。
あれから、あの日から保乃は明らかに俺のことを避けている。暇さえあれば遠慮なしに家に来て、漫画を読んだりだらだらしたりする保乃がここ数日パタリと来なくなってしまった。「母さんにもけんかでもしたんでしょ。あんた謝りなさいよ」って言われる始末
あの時、どうしても抑えきれなくて、保乃の腕を掴んでしまった。長年募らせた想いを告げかけた。今まで単なる幼なじみと思ってたやつにあんなことされたら誰でも警戒するか。
「蒼」
いつものように、気取らない口調で俺の名前を呼んで欲しい。いつもの人懐っこい笑顔で駆け寄ってきて欲しい
「あっちぃなー」
見上げた空は、腹立たしいほどの晴天、入道雲の切れ間からは、飛行機雲がまっすぐ延びている。まるで俺たちの間にある境界線みたいに
「あー・・・・会いてーな」
ぽつりと呟いた本音は乾いた風にかき消されて、あっという間に夏の空に消えていった。