3 それはきっと
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「ねぇおじさん、聞いてよ!私県の選抜に選ばれたんだよ、夏に合宿があるから大変だけどね、すごいでしょ?あとねー」


仏壇に向かってマシンガントークを繰り広げる姿も、10回目となると、もう笑える光景となる。微笑ましくもあるその後ろ姿を眺めながらテーブルから麦茶のコップを取って口につけていると

「あっそうだ、おじさんの息子の蒼君、大切なおじさんの形見のカメラで女子を盗撮しようとするの。どうにかしてくれませんかね?」

聞き捨てならない爆弾発言に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

「盗撮?そんなことするわけないじゃん」

「えー私見ました。目いいんだからね」そう言ってにやっと笑う保乃は指で丸をつくって目元に当てて俺のことを見た。それはまるでカメラのレンズのように

「・・・あのね、父さん一応言っとくけど、俺犯罪なんてしないから」

仏壇に向かって弁解する俺と、それを見てまた笑う保乃。父さんは、こんなあの時から変わらない俺たちをどこかで見てくれてるだろうか。



「保乃だから・・・」

「え?」こちらを振り返った保乃の頭に手をやると、くしゃくしゃと髪の毛をかき乱す「もうーちょっとなにするの!」

「誰にでもカメラを向けたいわけじゃないから・・・保乃だから」

複雑な表情で俺を見つめ返す保乃の透き通った無垢な瞳が、指先に触れる細くて柔らかい髪の毛が俺の胸の奥の方をぎゅっと締め付ける。



保乃だから・・・


なんて口にしたら簡単な言葉、簡単な理由なんだ


だけど、伝えたいこともそれが全て。



俺が小説家や作詞家ならもっとうまく伝えられるのかもしれない、でもそんな才能のない俺にとってはもうそれが全てで、俺はほほえむ父さんの遺影の前でもう一度手を合わせた。







about5 ( 2020/01/30(木) 21:22 )