03
それから15分くらいしていると顧問の田中先生が部室に入ってくる。
「おう、おまえらちゃんと部活やってるかー」
田中先生はウチのクラスの担任であり、部活の顧問でもあり、砕けた会話も許されている。
「そうだ、おまえらもうすぐフォトコンテストのデータ提出忘れるなよ!終業式の日までだからな」
田中先生は、部室の入り口付近にある、掲示板に資料を張りながら俺たちに念を押した。フォトコンテストとは、地元の大手カメラメーカーが企画しているコンテストで毎年応募している。
「みんな聞け!誰かが入賞できたら、田中先生様が全員に焼き肉おごってくれるってよー、みんな気合い入れてくぞ」
「おい!佐藤、俺そんなこと一言も言ってないぞ」
しらばっくれる先輩と、慌てる先生。そんなやりとりを横目に俺はさりげなく窓の外に視線を向けた。2階にあるこの部室からはグラウンドが広く見渡せる。体操をしている野球部も、アップをしているサッカー部。そんな中、グランドを友達と楽しそうに走っている保乃がいた。
そういえば、最近保乃が入っているバレー部も体力アップのためにグラウンドを結構走るって言ってたような、中学校から続けているバレーボール、1年生の時からレギュラーを勝ち取っている彼女は、チームのエースらしい
たまに室内のバレーボール部が走っているのはなんとなく知ってはいたけど、あえて見るような事はしなかった。
盗み見るようでなんか気が引けるし・・・
なにより先輩達や部活の奴らに見つかって、冷やかされるのも真っ平ごめんだ
それなのに・・・
保乃を視界に捉えた瞬間、俺は思わず、カメラを手に構えていた。初めてファインダー越しに見た保乃は思ったよりもさらにずっと遠くに居て、小さすぎてピントなんて合わない。
手が届きそうで、届かない
近いようで、遠い
それは俺と保乃の関係を表しているようだった
ズームをきかせてピントを調節すると、だんだんはっきりと姿が見えてきた。
もっと
もっと近づきたい・・
この思いが届くような距離に
そのとき
保乃がふとこちらを見た。
俺は慌ててカメラを下ろすと、窓に背を向ける。
今・・・目があったよな・・・ファインダー越しに
こっちから見えるって事は、あちらからももちろん見えるわけで、でもこの距離だし・・いやまさかな
「おい!なーに一人でアワアワしてるのかな?」
「うわ!」
不適な笑みを浮かべた佐藤先輩と高野先輩が唐突に顔を覗き込んできて、俺はその場で飛び上がってしまった。
「何真剣な顔して見てたんだか」
「おい何々、ここから女子の部室でも覗けんの?」
「・・・って見ても、覗いてもいませんよ、別に」
「井上は、フォトコン、人物部門にエントリー決まったから」
「はぁ?えっ」
「これは部長命令だー、それともあれか今久保っちとか、さくらちゃんに言うぞー蒼が女子を盗撮してたって」
2人の先輩にニヤニヤしながら背中をたたかれ、俺はがっくりと肩を落とした。
バレバレってことですか
「・・・分かりましたよ」
「ありがとうー頼むぞ!」
ファインダー越しの保乃の姿をもう一度頭の中で思い描く、幼い頃からこの目で見てきた彼女とはまるで別人のような感覚だった。ざわつく気持ちをごまかしたくて、俺は目にかかる前髪をぐしゃぐしゃに乱した。