2 俺にとって
01
ガチャ、ギー

開閉するときに地味な鈍い音を立てるこのドアは、いつかの卒業生の可愛らしい文字で「写真部」と控えめなラベルが貼ってあり、その横にはいつかの卒業生達の写真が貼ってある。


「お疲れ様です・・・」

俺はいつものように口先で感情のない挨拶をぽつりとつぶやきながら、部室に足を入れた。部室の中は写真部とあって、様々な写真と賞状が貼られる


「お!井上」

「蒼君おつかれさま」

「おまえ、ちゃんとあいさつしろよー」

部室には仲の良い3年生の先輩が3人、高野先輩と、佐藤先輩と、そしてこの部活のマドンナだと男子はいう久保先輩。この3人だけは引退したのに、たまに部室でくつろいでいる。ちなみに部員は1年2年であと6人いるけど、ほとんどがたまにしか来ないし今日も何人か来ているがみんなスマホに夢中、むしろこの3人の方が良く来ている。気兼ねない先輩達とまったりとした雰囲気が案外気に入っている。


俺は父さんがカメラが趣味だったのもあって、幼い頃から写真が好きで、父さんから譲り受けたデカいカメラを小学生の頃からぶら下げて、風景や動物を撮っている。

「井上ってさ、本当に人を撮らないよな」

前に撮った写真を見返していると、頭上から突然佐藤先輩の低音の声が降ってくる。

「いやちょっと、勝手に覗かないでくださいよ」

「いーじゃん、別に減るもんじゃないし、むしろ見る物だろ?」

俺けっこう井上の写真好きなんだよなーと言ってくるこの人は元この部活の部長で、チャラそうな見た目とは変わって綺麗な写真を撮る。

「そういえば、私も蒼君が人を撮ってるの見たことないかも」

今度はまた頭上から久保先輩が覗き込んでくる。先輩達がマドンナと言うだけあって、真っ白な肌に大きな目、優しい性格の久保先輩がぐっと近づいてカメラを覗き込むと、いくら俺でも照れてしまう

「今度撮ってよ、彼女とか?それかなんか理由あるの?」

「え?蒼君彼女いるの?」

佐藤先輩の言葉に反応した久保先輩、2人に注目されてしまった俺は言葉に詰まる。


そんな俺を助けるかのように部室の戸がガチャと音を立てて開く、その入ってきた人に久保先輩が駆け寄っていき、俺はほっと安心する


about5 ( 2020/01/24(金) 22:19 )