02
SHRを終えた教室には、雑談する声が飛び交う。俺が1時間目の生物の移動教室の準備をしていると、後ろのドアから不意に名前を呼ばれた。振り向くと、英語のノートを顔の横で揺らしている保乃の姿。
「蒼ーこれありがとー」
「保乃、声でかい」
よく通るその声に声に、近くに居たクラスメイトがちらりとこちらを見た。それでも全く気にしない保乃は
「ねぇ、ねぇ昨日あの漫画発売日だよね?もう買った?」
「買ったけど」
「やった!じゃー今日の夜蒼の家行くね!じゃーまたねー」
満足そうな顔をして隣の教室に帰っていく。こういう天真爛漫さが、周りから可愛がられる所以であり、俺が惹かれている部分でもある。
「本当におまえらの会話は、毎度毎度のことながら恋人同士の会話にしか聞こえませんなー」
横からひょこっと顔を出したのは、クラスメイトで俺の数少ない友達の佐野。そういえば去年の入学式早々も保乃のさっきみたいな発言がクラスをざわつかせたことがあった。去年は同じクラスだったからなかなかみんな信じてなかったけど、それより保乃はまったくそんな噂にも興味がないのかなんとも思ってないようで、クラスメイトの噂のターゲットにされるより、そっちに落ち込んだ。
「だったらいいんだけどさ」
「え?なんか言った?」
「いや・・・・なんでもない」