02
出勤初日を終えた隼人は雨の降る中、黒い傘を差しバス停でバスの来るのを待っていた。
「あれ?もしかして初めて先生?」
バスを待っている隼人を後ろから誰かが声をかけた。
「えっと、宮脇さんだよね。宮脇咲良さん。」
「えーすごいもう名前覚えてくれたんですか」
そこに立っていたのは、隼人と同じ2年4組の生徒である、宮脇咲良だった。
「宮脇さん傘は?ずぶ濡れじゃないか」
咲良は傘を所持しておらず雨に打たれびしょ濡れになっていた
「傘持ってくるの忘れたんですよ」
「これ使っていいよ」
隼人は自分の使っていた黒い傘を咲良に差し出した。
「え?でも初めて先生濡れちゃうよ」
咲良は自分が使えば隼人が濡れると思い、その傘を受け取らなかった。
隼人は考え咲良が濡れない方法を考えた。
「じゃあ一緒に入る?」
隼人は相合い傘を提案した。
「え?いいんですか?じゃあお構いなく」
咲良はそう言って隼人の大きな傘の中に入った。
よく見ると咲良の制服のシャツは雨で濡れ、下に着ているキャミソールが透けていた。
隼人はそれに気づき目のやり場に困った。
しかし咲良は透けていることにまったく気づいていなかったのだ。
「初めて先生って優しいんですね」
咲良と隼人はバスを待つ間二人で話をしていた。
「自分の生徒だし、それに女の子を濡れさせるわけにはいかないからね。あっ、それと初めて先生じゃなくて、木下隼人だから。名前で呼んでよ宮脇さん」
「はーい。じゃあ木下先生、私のことも宮脇さん。じゃなくて咲良って呼んで」
そんな会話をしているうちにバスが来た。
しかしバスは雨ということもありいつもより人が多かった。夕方の時間で帰宅ラッシュに巻き込まれたのだ。
咲良と隼人はバスの中で密着状態となった。
「汗臭い〜」
咲良は小声で隼人に耳打ちした。
咲良の後ろにいたのは小太りのサラリーマンであった。
「我慢して」
小声で隼人は咲良に伝えた。
バスが停留所に止まり、数人の客がおり多少身動きが取れるようになった。
しばらくバスに揺られていると、咲良の顔が険しい表情になっていることに、気が付いた。
その表情を見た隼人はあることに気が付いた。
後ろにいた小太りの男が咲良のお尻をスカート上から擦っていた。
隼人は何も言わず咲良をかばうように咲良と場所を入れ替わり盾になるよう立ち位置を変えたのだった。
小太りの男は小さい音で舌打ちをし、次の停留所で降りて行った。
それから、3つの停留所を過ぎ、隼人はバスを降りた。
バスを降りると雨は上がり、夕焼けが雲の切れ目から、姿を現した。
「木下先生もここなんですか?」
声のする方に目線を向けるとそこには咲良の姿があった。
「咲良の家もこの近くなんだね。」
偶然は続き咲良と隼人の家は同じ方角であったため二人は肩を並べ歩いて帰った。
しばらく歩くと咲良が口を開いた。
「ここが私の家です。先生わざわざありがとうございます。ほんとに先生は優しいですね。バイバイ先生」
咲良は手を振りながら家の中へと姿を消した。
家の中に入り顔を赤く染めた咲良は小さな声でつぶやいた。
「先生」
咲良は隼人が痴漢から助けてくれたということに気付いていた。
隼人は咲良を見送った後、周りを見渡した。そこはどこか見たことのある景色だった。
隣を見ると見たことのあるアパートが。
そこは隼人の住む小さなアパートであった。
隼人はカツカツと足音を立て階段で、2階に上り自分の部屋へ入った。
無事初日を終えた隼人はそのまま布団に倒れこみ、眠りについた。