第6章
急遽の自習
その頃、優希以外の生徒は山本先生が来るのを待っていた。当然、優希が山本先生の特別授業を受けるなんて知る由もないし、優希が教室にいないのも知らない。やがて…

「はーいみんな席着いてー。」
「えっ…何で指原先生?」
「あれ?先生授業間違えてない?」
「先生、日本史の授業は?」

指原先生が来たのでみんな驚いた。

「せんせーい、今日授業変更聞いてませんよ?」
「ごめんねー、急遽山本先生来れなくなったの。だから、今日は自習してね?」
「そんなー…」
「あれ?優希の姿も見えねえよ?優希どうしたんすか?」
「優希君もちょっと別の用事があってね、今の時間は来ないわよ。」
「優希も?優希のやつほんとに仕事してんのか?」
「またサボってんじゃね?」
「はいはい、みんなは口を動かさずに手を動かしてね?わかった?」
「はーい…」

みんなは渋々自習に取り掛かった。ただ、指原先生はというと…

(はぁ…しかし、さや姉も急だよね…『優希君に特別授業させる。』って、絶対“あっち”に決まってるよ。はぁ…最近優希君ともしてないし…さや姉いいなぁ…)

さと、優希と山本先生はというと…

「さあて特別授業始めんで?」
「りょうかーいっす。」
「と言っても、このプリント3枚だけなんやけどな。」
「これを昨日したんですか?」
「せやで、多分そんなに難しないで問題ないと思うけど…」
「まぁわからなかったら聞きます。」
「今日はうちと優希君の二人だけやで、何でも聞いてや?」
「わかりました。」
「なら始めて。別に焦らんでええからな。」
「はーい。」

優希はプリントとにらめっこした。先生の言う通りそれほど難しくなかった。黙々と問題を解いていく優希。ふと、隣を見た。先生は本を読んでいた。何の本なのかちょっと気になり、覗いてみた。

「ん?どうした?」
「えっ…あ…いや別に…」
「わからんとこあった?」
「そうじゃなくて、先生何の本読んでるんかなって…」
「ああこれか。気になる?」
「少し…」
「ええよ。」
「えっ…じゃあ。」

優希は本を見せて貰った。

「ん?これって…」
「恋愛本やで。」
「えっ…恋愛本?」
「そんなに驚かんでもええやろ。何なん、うちは恋愛したらあかんの?」
「そうじゃなくて、意外だなって…ほら先生って歴史好きという印象しかないから…」
「うちだって恋したいよ。」
「はあ…」

まさか先生がこんな本を読んでるなんて思いもしなかった。意外な事実を知った優希だった。

「なぁ優希君…」
「はい。」
「悪いんやけど、肩揉んでくれるか?」
「えっ…」
「ちょっと肩凝っててさ、優希君肩揉むの上手そうやし…」
「えっ…でもいいんですか?」
「頼むわ。」
「わかりました。」

優希は問題を解くのを止め、先生の肩を揉み始めた。

夜明け前 ( 2020/08/18(火) 13:40 )