第1話「AKBでも33分もたせる!?」
02

東京都内にある、“鞍馬六郎探偵事務所”には今日もおかしな訪問客がいた。

朝ドラの舞台にもなった北三陸の海女の格好をした20代後半の女性が

ウニ丼を売りつけに来ていた。


「見てけろ!これはオラが採ったウニで作ったウニ丼だど!」

「ふ〜ん」


助手として勤めている武藤リカコは、全く興味を示すことなく

話だけを聞いていた。


「それだけじゃねえど、これは80になるばっぱが近所のスーパーで・・・。

 あ、間違えた、“ウニ”に入って採ってきた“海”で作った“海丼”だ!」

「あのさ、無理して流行に乗っかるなよ。

 別に岩手出身じゃないでしょ、あなた」

「じぇじぇじぇ!なんで分かった!」

「イヤ、分かるやろがい!」

強い関西なまりの突っ込みが決まった瞬間、事務所のドアが開かれた。

海女の格好をしたその女は、たまたまドアの前に立っていたため

ドアと壁に挟まれ、顔面を強く強打してしまった。

リカコはそんな事に気にも留めず、突然の来客に驚く。


「探偵!事件だ!」

「警部!どうしたんですか、急に?」

「イヤ、事件だって言ってんじゃん」

「あぁ、六郎君だったら、今取り込み中なので、コーヒーでも」


そういうと、近くに置かれてあった小さな箱からビー玉を取り出し

机の上に置かれた巨大な装置の上に置いた。

ビー玉は装置の上を転がっていき、様々な仕掛けを作動させる。

まるでどこかの子供番組の装置を真似しているようだ。

最後の仕掛けが動き、紐が引っ張られるのと同時に

置かれてあったコップのもとに、コーヒーポットが倒れこむ。

しかし、あまりにも勢いが良かったため、コップの中に入ったのは

ほんの僅かだけだった。


「普通に注げばいいのに・・・」


大田原警部は僅かなコーヒーを啜りながら、心の声を漏らした。

ちょうどその時、事務所の2階からゆっくりと男が降りてきた。

よほど慎重なのか、両手で手すりを掴み、一段一段確実に歩を進めてくる。

ようやく、1階に降り立つと満足げな表情を浮かべた。

彼こそが、この事務所の所長、鞍馬六郎である。


「おう、探偵!何だ、取り込み中って?」

「“ギザ10”を拾いましてね」

「えっ、“ギザ10”って、あの“ギザ10”か!」


全く、彼らの会話についていけてない人のためにも説明しよう。

“ギザ10”とは、世間に流通している10円硬貨の中でも

周りのふちの部分がギザギザしているものが、いくつかある。

これはなんかしらの事があって、ギザギザになっているのらしいが

詳しくはウィ○ペディ○で調べてほしい。

つまり希少価値が高く、コレクターの間では高値で取引されるものだということだ。


「今、“ネットション”で。あ、イヤ、ネットオークションで調べたんですけどね。

 このギザ10、なんと最高千円で買ってくれるそうです!」

「そいつは凄いねえ!」

「でも、僕はまだ、これを売りません」

「どうして?」

「もっと、高値で取引される。そんな予感がしてならないからです」

「さすがだな、探偵」


大田原は彼の話を真剣に聞き、そして感銘を受けている。

しかし助手のリカコは、マッサージチェアに揺られながら

今の話の矛盾点に気がついた。


「安くなったらどうすんの?」

「・・・ん?」

「だって、たかが10円でしょ?どうせ安くなるって。

 しかも“ギザ10”ぐらい、私だって持ってるし」

「・・・ん?」

「おっと、今の“ん?”は考えてなかったってことかい?」

「探偵、そういや俺も“ギザ10”持ってたぜ・・・」


聞こえなかった。イヤ、正確には聞きたくなかった。

六郎は恥ずかしさと、沸々と湧き起こる怒りを抑えながら

マッサージを受けている助手に文句をつけた。


「リカコ君、何で君はいつも・・・」

「あぁ、やんのかい?」


何故か喧嘩口調で、しかも話している途中でリカコに反論をされた六郎は

彼女と同じ喧嘩口調で、反論を返した。


「あ、やんのかい?」

「やんのかい?」

「ああ、やんのかい」

「やんのかい、やったろやないかい。表出ろや、ほな」

「やったろやないかい、あほんだら」

「誰がアホじゃ、ボケ」


二人の喧嘩を大田原は止める術が分からず、あたふたしている。


「誰がボケじゃ、アホ」

「ああ、やんのかい?」

「せやから、やったろうやないかい」

「じゃあ、表出ろや!」

「やったろやないかい」

「やらへんわい!」

「やらへんのかい!」


喧嘩を売ったリカコがそう言い、この件はようやく終わった。

それを確認した大田原は、探偵に声をかける。


「探偵!事件なんだ!」

「あ、そうでした。それで、一体どのような?」

「なんでも、AKBのスタッフが殺されたらしい」

「えっ、AKB!?」

「なんだ、知ってんのか?」

「知ってるに決まってんじゃん、ハゲ!私、AKB大好き!

 特に、優子が私に“激似”でマジウケる!」


興奮したリカコは、自分の膝をバンバン叩き、爆笑している。

そんな彼女を無視して、会話は続けられた。


「まあ、ちょっと急いでるんだ。とにかく来てもらえんか?」

「アイドルのスタッフが殺されたとなれば

 マスコミが嗅ぎ付ける可能性がありますね。

 犯人に警戒されぬよう、気をつけなくてはいけません。急ぎましょう」


二人は事務所の前に止めてある大田原の車に乗り込んだ。

後からあわててリカコも、後部座席に乗り込むと

ようやく車は動き出した。

ポワロ ( 2013/11/02(土) 03:17 )