第6章
第134話

夕食を終えそれぞれの班で片付けを済ませる。

その後新内先生が花火を買ってきてくれていたらしく、みんなですることになった。

そんな中、未だお腹いっぱいの蒼は、広場のベンチからその様子を眺めていた。

蒼「(みんな楽しそうだな、良かった。)」

そう思っていた蒼のところに一つの人影が現れる。

「橘先輩。」
蒼「林さん。」

お辞儀をする林。

林「先輩花火しないんですか?楽しいですよ?」
蒼「今お腹いっぱいでさ。それに、眺めてるだけでも結構楽しいから。」
林「そうですか・・・隣、良いですか?」
蒼「ん、どうぞ。」

1人分の間隔を空け蒼の隣に座る林。

林「ふぅ・・・。」
蒼「あ、そうだ。さっきはありがとうね。掛橋のこと一緒に探してくれて。」
林「あ、いえ。私が探したかっただけなので。それに、お礼を言うのは私の方です。」
蒼「え?」
林「沙耶香に聞きました。崖から落ちそうになった沙耶香を橘先輩が助けてくれたって。でも、先輩は沙耶香の身代わりになったせいで怪我しちゃったって、話してくれました。」
蒼「あいつ、気にしなくて良いって言ったのに・・・。」
林「先輩、沙耶香を救ってくれて、ありがとうございます。あと、昼間はあんなこと言ってごめんなさい。」

そう言って頭を下げる林。本当に掛橋のことを大切に思っているのだろう。

蒼「良いの良いの。それに、林さんも沙耶香を想っての言葉でしょ?なら、謝る必要ないんじゃないかな。」
林「でも」
蒼「それにさ、俺は沙耶香を助けられたってだけで十分だから。だから、気にしないで?」
林「・・・。」

何故かじっと蒼を見つめる林。

蒼「・・・なんでしょう?」
林「・・・あ、いえ。なんか、みんなが先輩を慕う理由が分かりました。」
蒼「うーん、慕われてるのかな?分かんない。」
林「慕われてますよ。よく教室でみんなが話すんです、蒼先輩が優しいとか、かっこいいとか。正直、今まではそんなことないのにって思ってました。ただの八方美人だって。」
蒼「・・・林さん、結構グサグサ刺さってるよ今。」
林「あ、違うんです、前はそう感じてたってだけで。今は、本当に心が優しい先輩なんだなって思ってます。今日一日見ていて分かりました。」
蒼「そっか、ありがとう。」

蒼がそう言うと林はフッと微笑む。

蒼「あ、今日初めて林さんの笑った顔見たかも。」
林「ほんとですか?でも、恥ずかしいのであまり見ないでください。」
蒼「残念。まあ、これからは林さんも何かあったら頼ってよ。力になれるか分からないけど。」
林「ありがとうございます。・・・でも、沙耶香への愛は負けませんから。」
蒼「林さんって沙耶香のこと好きなの?」
林「当たり前です。あ、もちろん友達としてですよ?でも、先輩よりは沙耶香のこと知ってる自信あります。」
蒼「じゃあ、またいろいろ教えてもらおうかな。」
林「私で良ければ。沙耶香のことならお任せください。」

そう言って笑い合う2人。そこに向こうの方から掛橋と佐藤が走ってくる。

掛橋「あー、瑠奈こんなところにいたー!って、なんで先輩もいるんですか!?」
蒼「俺が休んでたところに林さんが来ただけ。話あるって。」
掛橋「え、何の話ししてたんですか?沙耶香に教えてください!」
蒼「んー、林さんが沙耶香のこと好きって話とか。」
林「え、ちょっと、橘先輩。」
掛橋「瑠奈が?えへへー、嬉しい。沙耶香も瑠奈のこと好きだよ?もちろん璃果も!でも1番は・・・」

そう言って蒼の頬に近づきキスをする掛橋。

佐藤「さ、沙耶香!?」
蒼「・・・ちょっと沙耶香、いくらなんでも大胆すぎる。」
掛橋「2人になら見られても平気です!先輩もしてください!」
蒼「アホか。」
掛橋「いてっ!もう、またでこぴんしましたね!先輩のバカ!」
蒼「バカで結構。それより、何か用あって来たんじゃないの?」
掛橋「あ、そうだ。瑠奈に花火しようって誘いに来たんです!ほら瑠奈、行くよー!」
林「あ、う、うん。」
蒼「行ってらっしゃーい。」
掛橋「何言ってるんですか、先輩も行きますよ、ほら!」

そう言って蒼の手を引く掛橋。

蒼「おい、分かったから引っ張るな!行くから!」
掛橋「早く来ないとなくなっちゃいますよ!ほら瑠奈行こ!璃果も!」

そう言って走っていく3人。が、佐藤が少しして戻って来る。

蒼「どうしたの佐藤さん。行かないの?」
佐藤「あ、えっと、沙耶香のことありがとうございます。あと、瑠奈のことも。」
蒼「林さん?」
佐藤「瑠奈、沙耶香のこととなるといつもあんな感じになるので・・・だから、先輩が真正面から向き合ってくれて、良かったです。」
蒼「俺も沙耶香のことは大切な後輩だと思ってるから。もちろん他のみんなもね。」
佐藤「これからも、沙耶香達のこと、お願いしますね?」
蒼「もちろん。」

掛橋「2人ともー!早くー!」
蒼「だってさ。ほら、行こっか。」
佐藤「はい!」

遅れながらもみんなに合流した蒼。
こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだった。


Haru ( 2021/12/05(日) 10:35 )