第6章
第132話

蒼「・・・。」

蒼が目を覚ますと、目の前には見たことない天井が広がっている。木目の感じからすると、おそらくコテージの一室なのだろう。

誰かが運んでくれたのだろうか、そう思いつつ身体を起こそうとする蒼。が、身体が重く起き上がれない。ふと自分の身体を見ると誰かがもたれかかっている。

髪型からしておそらく掛橋だろう。
蒼はそっと掛橋の頭を撫でる。

掛橋「ん・・・。・・・っ、先輩!!」
蒼「おはよ沙耶香。」
掛橋「ご、ごめんなさい!私のせいで!本当にごめんなさい!」
蒼「沙耶香、声でかい・・・。頭痛いから大声禁止。」
掛橋「あ、ごめんなさい。でも・・・ほんとよかった、よかったです・・・。」
蒼「俺も沙耶香が無事で良かったよ。」

泣き出す掛橋の頭を撫で続ける蒼。

掛橋「・・・あっ私、先生呼んできます!先輩は寝ててください!」

掛橋は慌てた様子で部屋を出る。数分後、深川先生と共に蓮たち同級生や後輩たちが入ってくる。

蓮「蒼!」
蒼「蓮、声でかいって。」
蓮「あ、悪い。大丈夫なのか?」
蒼「何とかな。蓮たちが運んでくれたの?」
蓮「あぁ、俺と翔と、あと凪と。」
蒼「悪いな、さすがにあそこからだと重かったろ。」
凪「ほんと、重かったー。」
翔「まぁでも、無事でよかったよ。」
蒼「さんきゅ。」

そう話していると深川先生が蒼に近づく。

深川「話してるとこごめんね、橘君、念の為ちょっと見せてもらえる?」
蒼「あ、すみません。どうぞ。」

みんなのいる前で深川先生に問診される蒼。

数分後、ふぅっと息を吐き、蒼から離れる深川先生。
蒼の左手首には包帯が巻かれていた。

深川「意識も脈拍も正常。身体もあちこちあざにはなってるけど、幸い頭は打ってないみたい。」
蒼「そうですか、ありがとうございます。」
深川「でも、左手首痛めてるとこは、暫くは使わないように気をつけて。包帯、取っちゃダメだからね?」
蒼「分かってます。」
深川「じゃあ、私は新内先生に報告してくるから。ほら、みんなも橘君の無事確認出来たんだから、部屋出なよー。」
「「はーい。」」

それぞれ蒼に声をかけ部屋を出ていく。

飛鳥「・・・また無茶して、蒼のバカ。」
蒼「悪かったって。でも、大事な後輩守るためだから、飛鳥だってそうするだろ?」
飛鳥「それはまぁ、そうだけど・・・とにかく、早く戻ってきてよね。蒼いないとみんな元気ないんだから。」
蒼「はいはい。」

そう言い残し飛鳥は部屋を出ていく。
残るは山下と掛橋の2人になった。

山下は俯いたままドアのそばで涙を流している。

蒼「・・・美月、いい加減泣き止んでくれない?」
山下「だって、私のせいで・・・私が掛橋ちゃんにあんなこと言ったから・・・。」
掛橋「ち、違います!悪いのは全部私です・・・。」
蒼「・・・美月、こっち来て。沙耶香も、ほら。」

蒼がそういうと山下と掛橋はゆっくりと蒼に近づく。

蒼「2人ともしゃがんで。」

蒼の前にしゃがみ込む2人。その2人の額にデコピンを1発ずつお見舞いする蒼。

掛橋「いたっ。」
山下「・・・痛いです先輩。」
蒼「はい、これで2人とも罰は受けたから、もう泣くの禁止。それに、沙耶香も俺も無事だったんだから、ね?」
山下「でも、先輩怪我したじゃないですか・・・。」
蒼「これくらい何でもないよ。ご飯食べにくいくらいかな?字は右でも書けるし。」
山下「でも・・・。」
蒼「でもじゃない。俺がいいって言ってるんだから。それよりほら、美月は沙耶香に言うことあるだろ?」

蒼がそう言うと山下は掛橋の方へ身体を向ける。

山下「掛橋ちゃん、その・・・ごめん、私が変なこと言ったせいで怒らせちゃって・・・。」
掛橋「いえ、私もその、山下さんが言ってたのがデートのことだって思ってなくて・・・ごめんなさい。」

掛橋の発言を聞き蒼の方を見る山下。蒼が目を見て頷くと山下もそれを理解したのか小さく頷く。

蒼「はい、じゃあこの件は終わり。2人ともこれから仲良くしなよ。じゃないと俺怒るから。」
山下「・・・はい。ありがとうございます、先輩。」
掛橋「私も、ありがとうございます。」
蒼「いいえ。じゃあ俺少し寝るから、2人はみんなのとこ戻りな。」
山下「ですね。行こ、掛橋ちゃん。」
掛橋「そうですね・・・。」
山下「・・・あ、そうだ。」

山下が掛橋に何かを耳打ちする。それを聞いた掛橋が山下を見た後、山下と同時に蒼の方へ身体を向ける。

蒼にゆっくりと近づく2人。次の瞬間、蒼の両頬にそれぞれの唇が触れる。

蒼「・・・。」
山下「じゃあ先輩、待ってますね?」
掛橋「こ、来ないとまた来ちゃいますからね!」

2人はそう言い残し部屋を後にする。

掛橋がまた変な影響を受けないかと心配しながら少しの間眠りにつく蒼であった。





Haru ( 2021/12/02(木) 22:46 )