第6章
第131話

二手に分かれ掛橋を探す3人。
しかし、探しても探しても見当たらない。

蒼「どこ行ったんだよ掛橋・・・。」

すると目の前に深川先生が現れる。

深川「あれ、橘君?どうしたのそんなに慌てて。・・・もしかして掛橋さん?」
蒼「そうです。何で分かったんですか?」
深川「さっき掛橋さんが向こうの山の方行くの見えたから・・・もしかしてまた何か怒らせたのね?」
蒼「またって・・・でもまぁ、そんな感じです。」
深川「全く、女の子は怒らせたら厄介なんだよ?ほら、ちゃんと見つけ出して仲直りしてきなさい!」
蒼「そのつもりです。先生、ありがとうございます!」

再び走りだす蒼。

山へ入り掛橋を探す。
するとしばらくいった先で道が二手に分かれている。

蒼「くそ、どっちだよ・・・。」

まだ昼過ぎとはいえ山の中は太陽の光が入ってこないため少し薄暗く感じる。

よく見ると右の道の方にかすかに人が通ったような靴の跡が残っていた。

蒼「・・・行ってみるか。」

跡のある方へとしばらく足を進める蒼。
が、ついに道がないとこまで来てしまった。それでも掛橋は見つからない。

蒼「間違ったかな・・・仕方ない、戻るか。」

蒼が戻ろうとしたその時。

蒼「ん?」

近くの木の後ろで誰かがしゃがみ込んでいるのが見える。
蒼は恐る恐る近づき正体を確かめる。

蒼「見つけた・・・。」

そこにいたのは、ずっと探していた掛橋だった。

掛橋は一度顔を上げ蒼の姿を確認した後、再び顔をうずめる。

蒼「ったく、どこまで来てんだよ。」
掛橋「・・・。」
蒼「ほら、帰るぞ。」
掛橋「・・・嫌です。」
蒼「・・・あっそ。じゃあ、俺1人で帰るよ。ここ結構山だし、猪とか出るかもだけど。・・・じゃあね。」

そう言って去ろうとする蒼の服の袖を掴む掛橋。

蒼「・・・はぁ。」

ため息をついた蒼は、何も言わず掛橋の隣にしゃがみ込む。

掛橋「・・・なんですか。」
蒼「なんですかって、沙耶香が袖掴んできたんでしょ。行くなってことじゃないの?」
掛橋「そう、ですけど・・・。」
蒼「さっき美月に何言われたか知らないけど、本当に付き合ったりしてないからな?そりゃ仲良い後輩だけど、それは沙耶香も他のみんなも一緒だから。」

掛橋が少し顔を上げる。目には泣いた跡がある。

蒼「だからほら、機嫌直して。」
掛橋「・・・でも。」
蒼「でも?」
掛橋「美月さん、沙耶香にはまだ早いかもって言ったんです。それってその、つまり・・・」
蒼「・・・まぁ、したよ。」
掛橋「やっぱり・・・」

俯く掛橋。

蒼「でも、沙耶香ともした事あるじゃん。」
掛橋「・・・え?」
蒼「え?」
掛橋「わ、私先輩としてません!てか、したことないです!」

どうも話が噛み合わない。

蒼「・・・ん?沙耶香何の話ししてるの?」
掛橋「せ、先輩こそ、何の話ししてるんですか?」
蒼「何って、デートしたって話だけど・・・違った?」
掛橋「で、デート?」
蒼「うん、デート。」
掛橋「デート・・・あ、あぁ!知ってます!もちろん分かってましたよ!」

明らかに動揺している掛橋。

蒼「絶対分かってなかったろ。」
掛橋「わ、分かってましたよ!てか!私デートだとしてもしたことないんですけど!」
蒼「え、したじゃん。中学の時放課後に一緒にアイス食べたろ?委員会終わりに。忘れたの?」
掛橋「お、覚えてますけど、あれデートなんですか!?デートって言ったら私はもっとこう、駅とかで集合して2人きりで遊ぶみたいなの想像してたんですけど!」
蒼「まぁ、2人きりに変わりはなかったしデートとさほど変わんないでしょ?」
掛橋「ま、まぁ、あの時は嬉しかったですけど・・・。」
蒼「ならデートってことにしよ。てか、沙耶香は何の話だと思ったの?」
掛橋「えっと、それは・・・先輩には言えません!」

そう言って顔を隠す掛橋。

掛橋が思っていたことをなんとなく理解した蒼。おそらく山下も掛橋が思っていたことと同じ意味で言ったのだろうが、蒼はなんとかデートだと誤魔化した。

顔を隠す掛橋を見てふっ、と笑う蒼。

掛橋「な、なんですか。」
蒼「いや、沙耶香が何想像したのか知らないけど、照れるってことは変なこと想像したんだろうなって思ってさ。」
掛橋「そ、それは・・・仕方ないじゃないですか!2人でいるとこ見たら誰だってそう考えます!」
蒼「そうかな、沙耶香だけだと思うけど。」
掛橋「なっ、そんなわけないです!も、もうこの話は終わりにしましょう!ほら、先輩帰りますよ!」
蒼「はいはい。」

2人並んで来た道を戻る2人。
すっかり機嫌も戻ったのか鼻唄を唄いながら歩く掛橋。

蒼「機嫌は戻ったみたいだな。」
掛橋「ま、まぁ、私の誤解だったところもあるので・・・。でも、今度私ともちゃんとデートしてくださいね!2人きりで!」
蒼「分かってるよ。」

蒼がそう言うと掛橋は嬉しそうにニコッと微笑んだ後、スキップでどんどん先を進んで行く。

蒼「沙耶香、危ないから走るのやめな。」
掛橋「大丈夫ですよー!ほら、先輩も早く帰りますよー!」

蒼の方を振り向いて後ろ向きで歩く掛橋。
蒼も掛橋について歩いていく。

蒼「おい、分かったから前向いて歩けって、危ないから。」
掛橋「大丈夫ですって〜!ほらほら〜」

そう言っていた矢先。

掛橋「あっ」

地面に埋まっている石の段差に引っかかり体勢を崩す掛橋。
体制を崩したその先は道がなく、比較的緩やかではあるが崖になっていた。

蒼「沙耶香!」

身体が咄嗟に反応したのか、落ちそうになる掛橋の腕を掴み後ろに引っ張る蒼。

その反動で蒼の身体は崖へと傾きゆっくりと落ちていく。

必死に手を伸ばす掛橋。
それが蒼の目に映った最後の光景だった。











Haru ( 2021/12/01(水) 12:49 )