第6章
第130話

蒼を見る掛橋。その隣に山下がいるのを確認すると、表情がどんどん暗くなっていくのが鈍感な蒼でもわかった。

蒼「掛橋、どうした?」
掛橋「・・・蒼先輩、こんなとこで何してたんですか?しかも山下先輩と2人きりなんて・・・」
蒼「いや、俺が休憩してたところに美月が来たから一緒に休んでただけ。何もないよ。」
掛橋「・・・山下先輩、本当ですか?」

山下を見る掛橋。

山下「ほんとだよ。」
掛橋「・・・お二人は付き合ってるんですか?」
蒼「いや、そんなわけ」
山下「付き合ってる、って言ったら?」
掛橋「っ!!!」

山下の発言に驚きを隠せない掛橋。

蒼「おい美月、後輩をいじめるのはよせ。」
山下「・・・ふふっ、嘘だよ掛橋ちゃん。私と先輩は付き合ってないよ。」
掛橋「・・・じゃ、じゃあなんでこんなとこで2人きりで居るんですか?みんなに見えないようなこんな所で・・・」
蒼「だから、それは俺がここで」
掛橋「蒼先輩は黙っててください!」

静寂が流れる。

掛橋「山下先輩、答えてください。」
山下「先輩が言ったように、蒼先輩が寝てたところに私が来ただけだよ?だから、先輩は悪くないんじゃないかな?」
掛橋「・・・山下先輩は、何でここに来たんですか?」
山下「うーん・・・なんでって、そりゃ先輩が好きだから。掛橋ちゃんも先輩見つけたら来るでしょ?」
掛橋「それは・・・」
山下「ほらね?まあでも、さっき言ったけど本当に付き合ってはないよ。」
掛橋「そうですか、良かった・・・。」
山下「あ、でも・・・」
掛橋「?」

そう言って掛橋の耳元に顔を近づける山下。

山下「掛橋ちゃんには、ちょっと早い関係かもね?」
掛橋「えっ、それって・・・」
蒼「おい美月、何を」
掛橋「・・・っ!!」
蒼「いてっ!お、おい沙耶香!」

手に持ったボールを蒼に投げつけた掛橋はそのまま何処かへ走っていった。

山下「ありゃ、やりすぎちゃった?」
蒼「はぁ・・・。美月、さすがにやりすぎ。後フォローするの俺なんだからな。」
山下「すみません、でも掛橋ちゃんも蒼先輩のこと好きなんだって思ったらなんか負けたくないって思っちゃって、それで・・・」
蒼「にしてもやり方があるよ。俺はこんなやり方好きじゃない。」
山下「・・・。」
蒼「・・・まぁいい、俺ちょっと追いかけてくるから、山下はもうみんなのとこ戻ってて。」

そう言ってその場を去ろうとする蒼の手を掴む山下。

山下「・・・先輩、ごめんなさい。」
蒼「わかればいいよ。ほら、手放して?」
山下「私のこと、嫌いにならないでくたさい・・・」

蒼は泣きそうになる山下に近づき頭を撫でる。

蒼「こんなことでなるわけないでしょ。ほら、顔上げて。泣いてると可愛い顔が台無しだぞ。」
山下「そ、そこは泣いてても可愛いって言ってください!」
蒼「冗談だよ。じゃあ行ってくるから、またあとでな。戻ってきたら、ちゃんと謝るんだぞ。」
山下「・・・うん。先輩、掛橋ちゃんをお願いします。」
蒼「おう。」

掛橋の走った方向へ足を進める蒼。
その時、おそらく先ほどまで掛橋と遊んでいたであろう2人に声をかけられる。

「あの、待ってください。」
蒼「えっと、君は確か1年生の・・・」
林「林瑠奈です。この子は佐藤璃果って言います。」

蒼を見ながらおじぎをする佐藤。

蒼「林さんと佐藤さんね、覚えとくよ。でもごめん、今は掛橋追いかけないとだから。」
林「そのことなんですけど。」
蒼「ん?」
林「単刀直入に言います。もう沙耶香に関わるのはやめてください。」
佐藤「ちょ、瑠奈いくらなんでもそれは!」
林「だってそうじゃん!このままじゃ沙耶香が可哀想。璃果だってそう思うでしょ?」
佐藤「それは・・・」

佐藤が黙りこむ。

蒼「・・・どういう意味かな?」
林「そのままの意味です。橘先輩は確かに良い人そうでみんなに人気があって、それは分かります。でも、それを理由に色んな子と遊んで・・・沙耶香の気持ちだって知ってるんですよね?」
蒼「・・・ああ、知ってる。」
林「沙耶香は純粋なんです、良い子なんです。だから、これ以上沙耶香の気持ちを踏み躙るようなら、たとえ橘先輩でも私は許しません。・・・この際はっきり言います。私は先輩が好きじゃないです。もう沙耶香に近づかないでください。・・・ほら璃果、沙耶香探しに行こ。」
佐藤「あ、う、うん・・・。」

そこまで言った林は蒼に背を向け佐藤と共に去ろうとする。
その時。

蒼「・・・ごめん、それは出来ない。」

去ろうとする2人にそう告げる蒼。2人が蒼を振り返る。

蒼「確かに、林さんが言う通り俺は色んな子と遊ぶし、デートもしてる。だから、林さんが言うことも分かる。俺だって、大事な友達がそんなことされてたらそう言うかもしれない。」
林「だったら」
蒼「でも、俺は沙耶香の事も同じように想ってるよ。そりゃ、特別なことはしてあげられてないし冷たくする時もあるけど、それでも可愛い後輩に変わりはない。それに、沙耶香の気持ちにもちゃんと向き合うつもりだよ。」
林「・・・。」

黙って蒼を見る林。

蒼「だからごめん、沙耶香に近づくなって林さんの要望はのめない。俺は沙耶香の先輩としてこれからも関わっていくつもりだから。」
林「・・・そうですか。じゃあ、せめて沙耶香に冷たくするのはやめてください。あれでもあの子繊細なんです。」
蒼「・・・分かった、努力するよ。」

蒼がそう言うと少しは腑に落ちたのか、林の強ばった表情がほんの少しだけ和らいだ。

蒼「じゃあ、俺沙耶香探しに行くから。また後でね。」

そう言ってその場を去ろうとする蒼を呼び止める林。

林「・・・私も行きます。」
蒼「え?」
林「か、勘違いしないでください。1人で探すより早いって思っただけです。それに私も沙耶香が心配なので。」
佐藤「わ、私も探します!」
蒼「・・・ありがと。じゃあ2人はあっちお願い。俺は向こうから探すから。」

頷く2人。
こうして蒼は林と佐藤の3人で掛橋を探しに行くのであった。

■筆者メッセージ
昨日更新できずに申し訳ないです!

バタバタしててすっかり忘れてました、、、。

Haru ( 2021/11/30(火) 13:17 )